「続けて動けますか?」
「当たり前だ」
あの程度でくたびれていては、今まで何のために鍛えてきたか分からなくなってしまう。
「でしたら行きましょう。ここにもすぐギルディスが集まってくるはずです」
「あぁ。囲まれる前に動こう」
一振りストレイドを払うと、鞘に収める。
「? 鞘に収めてると、抜く時が面倒ですよ?」
「少し、試してみたいことがあってな」
歩みを進め始め、郁也はそんな意味深なことを告げた。
Chapter13 殲滅作戦(�U)
そしてその試してみたいことは、すぐに明らかになる。
先ほどの場所から一分と行かず、また別のギルディスの群れに出くわしたのだ。
「一体何体いるんだ、こいつらは」
そんな心からの疑問を口に出しつつも、郁也はストレイドの柄に手を当てると、腰を低く構えた。
「分かりませんけど……。郁也さん、その構えは?」
「最近はストレイドも軽く振るえるようになってきてな、それで試してみようと思ったんだ」
「……えっと、だから、何をですか?」
郁也の言いたいこと、やりたいことがいまいち分からず、ウィンは小首を傾げる。
が、そんな暇は無かった。
ここは戦場。
例え二人が会話をしていたところで、相手が止まってくれる道理は無いのだ。
背を向けるウィンに、飛び掛るギルディスが二体。
おそらく彼等は完全に不意をついたと思っていただろう。
もちろんそれは間違いではない。
ただし。
その能力をもって気配探知の結界を常に巡らせるウィンにとっては、不意打ちも不意打ちにはなりかねない。
「【矢よ】!」
まさに刹那。
その刹那でウィンはそのイメージを想像し、そしてそれを現実に創造した。
宙より突如現れた二本の矢が、寸分狂わずギルディスの急所を貫いたのだ。
「確かに……これは数が多いですね……」
しかし、それで慢心する事無くウィンはやっと背後を振り返る。
「こいつらも、さっきのを聞きつけてきたんだろ」
「……郁也さんのせいじゃないですか」
「気にするな」
それにどうせ来るのなら、一気の方が楽でいい。
まぁ、囲まれるとなれば話は別だろうが今は違う。
その正面に、複数体のギルディスが群を成していたのだから。
「ウィン、左半分任せた」
「いいですけど、この程度なら一掃しますよ?」
「……恐ろしいこと言わんように。周りの被害も考えろ」
それに、そんなことをすればまたギルディスが寄ってくるに決まっている。
確かに一気がいいのは確かだが連続はきついのである。
「そうですか」
どこか残念そうに見えるのは気のせいだろう。いや、気のせいであってほしかった。
まぁ、今はそれを考えていても仕方無い。
一応納得はしてくれたようだし気にしないでいいだろう。きっと。
そんなことより、自分が気にすべきは自分が相手する、計五体のギルディスだ。
先ほどとは違い不意打ちではないので状況は厳しいものがあるが、だがそれを見て郁也はマイナスの考えを浮かべはしなかった。
先ほど自分が言った試したいこと。
それは、不意打ちでは決して出来ないことなのだ。
故にそれを試せるのならばこういう状況も悪くないと言うものである。
既に敵の中へと飛び込んでしまったウィンを横目に、郁也も再び腰を低く構える。
しかし、そこからは郁也は
ただ本当に、構えただけだった。
そこには他の動きは何も無い。
一体それをギルディス達はどう思ったのか。
挑発か、単なる威嚇か。
とにかく、次の瞬間には郁也へ五体うち二体のギルディスが飛び掛った。
その刹那、郁也は見る。
二体のギルディスを、一直線に横切るその一筋を見極める。
それだけを確認すれば、もう迷う暇は無い。
そして、抜刀。
ストレイドを鞘より抜き放つと、その一筋に沿って一瞬で薙いだ。
まさに一瞬の出来事に、二体のギルディスは抵抗を見せなかった。
否、見せれなかった。
あまりの速さに、その反応がついていかなかったのである。
そしてあの速度の動きを見せたというのに、ストレイドは既に鞘に収まっていた。
それは見るものが見れば、何が起きたかわからないだろう。
それは居合と呼ばれる剣術の一つ。
自身の得物の間合いまで敵を誘い、そして一瞬でその得物を収めた状態から薙ぐ、まさに待ちの技だ。
もちろんそれには敵が自分の間合いに入ったことを見極める目が必要だが、見る力に関して郁也に問題は無い。
故に、本来なら剣の達人が行うようなこの技でも、郁也が行うことが可能だったのだ。
もっとも、この技は刀のような片刃の剣を使って行うのが普通なので、ストレイドでは完全に物にしたとしてもウィンほどの相手には通用しないだろうが。
まぁそれは割愛して。
とにかくそれが、郁也のやりたかったことだった。
抜き放ち、そしてたった一筋の線に沿って薙ぐことをただ練習していたのだ。
全体的にバランスよく鍛えるよりも、何か自分でできる一番のことにも特化して鍛えたほうがいい。
それが、郁也が出した結論でもあった。
そしてこの結果は、成功と言っても過言では無いだろう。
まだ鍛えれば充分に上達は有り得るのだから。
しかし、そうは言ってもまだ全てのギルディスを倒したわけでは当然ない。
まだ倒したのは二体であって、まだ三体も残っているのだ。
そしてさらに、残るギルディスは先ほどの郁也の居合を見たために迂闊に近寄ろうとはしない。
遠距離からの攻撃方法を持っているわけでは無さそうなので、何とか隙を探そうとしているのだろう。
だが、ここは戦場である。
敵は常に一人ではないと言うことを、彼等はすっかり忘れていたのだ。
故に彼等は、背後からのその小さな影の接近に気付かない。
彼等がその小さな影――ウィンの存在に気付いたのは、一体目のギルディスが倒れてからだろう。
両手に構えられた一対の小太刀を鮮やかに操る彼女の動作は、まさに流れる感じと言ってよかった。
音も無く小太刀を振るったと思えば、既にそれは一体のギルディスを仕留める結果となっていたのだから。
彼等が気付いた頃には、その姿も次の瞬間にはバックステップでギルディスから距離を取っている。
その行動の早さにはやはりさすがの一言に過ぎる。
そして、ウィンの突然の登場は、少なからず彼等に動揺を与える結果となる。
さらに、動揺は一瞬の混乱を招き体を硬直させた。
故にそれは致命的は隙となり、二人はその隙を突いた。
「ふっ!」
息を吐くと同時ウィンが地面を蹴り、一瞬で一体のギルディスの懐へと潜り込んだ。
そしてその隙だらけの背へ手を当て、
「【衝撃】」
一撃でその体を軽々と吹き飛ばした。
「ナイスショット、ウィン!」
そしてその落下点に郁也は先回りをしており、
「はぁっ!」
自身の間合いに入ったのを確認すると同時、居合でその体を切り裂いた。
そして最後の一匹は、ウィンが能力の発動と同時に振り抜いた小太刀が仕留める。
それはまさに早業。
互いの呼吸が合うからこそ成せた技だろう。
「居合ですよね? 郁也さんがやったのって」
郁也の方へ歩み寄りながらウィンはそう問う。
その顔に若干の変化があるのを見ると、さすがのウィンでも驚きは隠せなかったらしい。
まぁ、こちらとてウィンに秘密でやってきたのだからその反応も嬉しいものなのだが。
「不完全だけどな。ストレイドでやってるし、そもそも何回もやると腕が痛くなる」
「それは鍛錬不足ですってば。でも、もっと腕の力をつければ充分通用すると思いますよ」
「……それでも、お前に通用するかは怪しいところなんだけど」
「郁也さんの努力次第です。少なくとも、今のままでは当たりませんけどね?」
相変わらずの厳しい評価に苦笑。
が、それでも当たってはいるので反論を返すはずもなく、郁也はストレイドを鞘に収めながら言いたいことも心の奥に収めた。
もしここが郁也の世界であるとすれば、そこもきっと今のように賑わっていることだろう。
それは。学校帰りの学生達でもよし。イチャイチャするカップルでもよし。世間話に花を咲かせるおばさま方でもよしだ。
「そう思わないか? ウィン」
「わけ分からないです」
不意に話題を投げかけられても困る、と言うように表情を変えるウィンだが、それでも郁也の思いはもっともだというような色も含んでいた。
だがそれでも現実は変わらない。
そんな酷な事実を伝えるべく、ウィンはその重い口を開いた。
「現実逃避は、良くないです」
このまま夢を見ていたいな、とさらに少しだけトリップしそうな郁也である。
だがもう一度言う。
現実は酷だ。
「そもそも街の真ん中に行ってみようって言ったの、郁也さんじゃないですか」
二人がいる場所は本来、街が街として機能していれば間違い無く一番にぎわうであろう街の中心部である。
そしてこの世界でもそれは例外ではなく、そこは確かに賑わってはいた。
ただ一つ。
その賑やかさを作り出すのが学生でもなければカップルでもなければおばさま方でもないのが郁也の言葉の理由であろう。
「でも、普通こんなの思わないだろ……」
そこにいたのはそもそも人ではなく、ギルディスの大群だったのだ。
しかもその数、軽く見積もっても百は下らない。
「ここが最終防衛線なんでしょうね、きっと」
「そんな推測以前に、そこへたった二人で足を踏み入れた俺達の危機を察してやくれないか?」
きっと何が何でも彼等はここで自分達を守りきる気なのだろう。
その気迫ときたら、ここへ来るまでに戦ったギルディスとは比べ物にならないのである。
当然そこまで来ればさすがの郁也も危機感を感じるのは無理はない。
「でも襲い掛かってきませんよね」
「慎重に行動したいんだろ。下手に動いて総崩れしたら意味無いだろうし」
まぁもっとも、だからと言ってこの場を逃れるために背を向ければ問答無用で襲い掛かってきそうだが。
というか一瞬でも隙を見せたら襲い掛かられそうである。
「どうする? このまま人数が集まるまで待つか?」
「いえ、そんな時間を彼等が待ってくれるとは思いませんし、もしこれ以上気配が増えるようなら多少のリスクは顧みないで襲い掛かってくると思います」
「……ちなみに訊くけどさ、」
「この辺りの気配は私と郁也さん。二人分だけですから他に誰もいませんよ」
「……」
ほんの微かな望みすらも、もう消え失せた。
そして同時に察してしまう。
今がどういう状況かと。
「つまり、俺達に援軍を待つ時間は無いってことだよな?」
「はい。諦めて突撃しちゃえってことです」
「……お前、それは投げやりにも程があるぞ」
「いけいけゴーゴーです、っていうことで行きましょう郁也さん」
もう何を言おうが意味は無いようである。
「【爆発】!」
「って早っ!?」
どえらい爆発が彼等の中心で巻き起こり、彼の慎重に行動したいという思いは一瞬で無と化した。
「ウィン、お前鬼だ」
「【爆発】!!」
「それでももう一丁!?」
問答無用な少女であった。
大小とりあえずとんでもない爆発音が辺り一帯に響き、それはもう一種の地獄絵図。
やられているギルディスから見れば洒落にならないだろうっていうか死活問題。
いきなり巻き起こった爆発のせいで緊張すら感じることが出来なくなり右往左往する様子は、何処となく可哀想に見えるのは気のせいでは無いのだろう。
「郁也さん、ボーっとしてないで協力してくださいよ」
「何? お前はあの中に突撃して死ねと言うか?」
「当てませんから」
「ごめんさすがにそれは信用できない」
というか少なくとも爆発の衝撃で瓦礫とかが当たりそう。
もしくは爆風で吹き飛ばされるか。
とにかくあの中へ突撃するのは心のそこから遠慮願いたかった。
「仕方ないですね……。まぁ数は減りましたし、普通に行きましょう」
「……いや、あそこまでやったんならそのままやらないか?」
「駄目です。それじゃあ郁也さんのためになりませんから」
それを言われ、そういえばこれって実戦の経験積みも兼ねてることを思い出す郁也。
先ほどの光景のせいで何となく別のことが目的だと思っていたのは仕方の無いことだろう。
「それじゃ、行きますよ」
「はいはい分かりましたよ姫殿」
地面を蹴り、駆け出す二人。
対するギルディス達は、先程のことで既に怒り最骨頂。
自身等へ向かってくる二人へとかなりの殺気が向けられていた。
が、世の中は無情と不条理が溢れているのだ。
「【爆発】!!!」
故に郁也も、接近しつつ放たれたその一撃にもう何も文句は言わなかった。
いやまぁ、ギルディスから見ればやっぱり洒落にならないのだが。
もう無いと思っていた意味不明の攻撃が、いきなり足元からドカンだ。
爆心地にいたギルディスとかもう色々感じる前に果てたのだろう。
やっぱりこの娘って鬼の化身なんじゃないか、とか考えつつ、そろそろ攻撃の範囲に入るであろうギルディス達に備えて郁也はストレイドへと手を添えた。
しかし、
「【爆発】!!!!」
「う、嘘つきッ!?」
四回目はさすがの郁也にも予想できるはずもなく、しかも結構近い位置で爆発が巻き起こったために戦慄を禁じえなかった。
「だって、言いましたよ?
「お前の基準が俺には分かりませんっ!」
「戦場はどんな方法でも普通なんです」
「それって屁理屈――」
「【雷よ】!」
「もう嫌ぁーッ!?」
もうその恐ろしさと言ったら、戦場に立つ時だって感じることはない最上級のものだ。
故にそんな攻撃から逃げまとうギルディスの気持ちがよく分かった郁也だった。
合掌。
あとがき
どうも、昴 遼です。
さて、またまた郁也の新しい力の登場です。
居合という、今度はしっかり鍛錬の賜物の力ですね。
まぁもっとも、本来居合とはそんな短期間で習得できるものではないのですが、その辺りはご都合設定とお考えください(ぁ
しかし……相変わらずウィンが強いことこの上ない。
多分、今のところ敵無し。
可愛らしい姿してあの力って言うのはどうなんだろうなぁ、って最近感じ始めてきました。
いえ、その辺り個人的感情が入り混じってるので治す気はありませんが(マテ
まぁここまできたんです。
どうせだからこのまま突っ走ってもらいましょう。
さて次回ですが、殲滅作戦も終了する予定です。
もちろん、ありがちなゲームなどのような展開は待ち受けていますがね?
さてさてどうなることやら。
まぁネタバレもあれなので、本日はこの辺りで。
ではでは。
追伸。
そういえば今回から文の書き方が少し変わっていますが、お気づきですか?
会話と地の文の間に行間をあけるようにしてみたのですが、読みやすくなっていれば幸いです。
とかなんとか言いつつ、実際にはかなり以前にこれ書き終わってたりして、更新が遅れてるので他の作品と、現実世界での時間軸がずれてる気がしますがキニシナイw
でわー。