×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

 まずやることは、ストレイドを持つことに慣れること。

 そして次はそれを振るうこと。

 そうして、次第にその感覚を手に馴染ませるようにする。

 

 それが、今朝の朝食時にウィンからされたアドバイスだった。

 素振りも大切だが、無理にそれをやらず、まずは初歩の段階から始めるのが上達の近道らしいのだ。

 

 そしていま、郁也はストレイドを構え、その重みや手に感じる感触に慣れようとしていた。

 

「……重い」

 

 ――などと、当の郁也は格好いい状況には無かった。

 アーティファクトといっても、その材質は鉄に非常に似た物らしく、その重量も然りだったのだ。

 故に、ストレイドの重さは鉄パイプとか、そんな簡単な物とは比にならない程の重みを誇っていた。

 そしてろくに鍛えてもいない郁也の腕は、その重みを構え初めて僅か五分で限界が近づいていた。

 

 ――こりゃ……真剣に腕力鍛えないと……

 もう基本とかそんな話ではなく、根本に問題があることを今始めて悟る郁也だった。

 

 

 

 Chapter8 強くなるために

 

 

 

「何と言うか……だらしないですね、郁也さん」

「言わないでくれ……」

 疲れた腕を休ませているところにウィンがやってきて、そして放った言葉がそれだった。

 いやまぁ、確かにその自覚はあるのだが実際に言われるてみるとかなり来るものがある。

 ぶっちゃけ、非常に虚しくなってくるのだ。

「向こうの世界にいた時には何か運動とかはやってなかったんですか?」

「そんなこと言ってもなぁ……」

 万年帰宅部であった郁也だ。

 体育の授業以外にはあまり運動経験など無かった。

 それをその表情から読んだのだろう。

 ウィンの口からため息が漏れる。

「苦労しますよ? 郁也さん」

「……分かってる」

 そりゃもう痛いほどに。

 

「どうしますか? 私の方で鍛錬のメニューを作っておくこともできますけれど」

 それを見かねたのだろう。

 ウィンが、ふとそんな提案をしてくれた。

 

 だが、

 

「鍛錬って……ハードだったりするか?」

 

 ついつい本音が出てしまった無神経な郁也に、ウィンが再びため息を吐く。

「あのですね……ハードじゃない鍛錬は、正直存在しませんよ?」

「……うぐ」

 そして、そんな風に言われ郁也は思わず唸る。

 まぁそりゃそうだろう。

 郁也が無神経すぎたのだ。

 

「ともあれ、だ。頼んでいいか? ウィン」

「はい、大丈夫ですよ」

 結局、場はこんな形に収まることになった。

 まぁ郁也とて、それが今の最善と言うことは分かっているだろう。

 慣れていない者より、経験のある者が作ってくれたメニューの方が効率は高いのは当然なのだから。

「でしたら、明日ぐらいまでには作っておきますので、それまでは構えと、あとは素振りだけでもやっておいてください。

 メニューが決まってなくてもそれはちゃんとした鍛錬になりますから」

「了解」

 今の力で素振りが何回出来るのかがちょっとばかり心配な郁也だったのだが、先ほどのこともあるのでとりあえずは素直に頷くに留めた。

 

 

 

 ザクリ、と。ストレイドが浅く地面に突き立てられた。

 今や鍛錬場所は室内ではなく、一人で迷路を抜け――法則に従っても数回迷いかけたのだが――外へと出ていた。

 一人で外へ出るのは少し危険かとは思ったのだが、周りにはギルディスらしき影も見えないのでいいか、と郁也はそこで鍛錬を再会していたのだ。

 そして、今は丁度休憩でも取ろうかと腰を落ち着けたところだった。

 

 構えが五分程しか持たないのであれば、素振りに関しては初めて僅か二分で疲れが来たのは何とも情けない話だが、それでもある程度のコツという物は掴んできた。

 ストレイドの柄の握る位置や振る際の角度や方向。

 それを全て微調整することで、ある程度ならば手に掛かる負担も減らせることをこの数分の間に郁也は学んだ。

 まぁ実戦となればそれを考える間も無くなってしまうのだろうが、感覚として体に覚えこませれば何とかなるだろう、と言うのは郁也談。

「そういえば……」

 と、ふと思い出す。

 

 アーティファクト――ストレイドの使用に関しての訓練は、ウィンからは明確な指示は受けていないのだ。

 昨日の岩を砕く訓練を除けば、ウィンからこうしろ、ということを言われてはいない。

 だが、訓練はした方がいいとは言っていた。

 となればやはり、こちらに関しても何らかの訓練をしておいた方がいいのだろうか?

 

『それはですね』

 思念通話でウィンへその疑問を投げかけたところ、こんな答えが返ってきた。

『郁也さん自身、ストレイドとの相性がそこまでいいとは言えないんです。ですから、あまり無闇に力を使っても鍛錬にはならないんですよ。

 昨日はあくまで試しのつもりだったので、本格的にストレイドの扱いを鍛えるとすれば、もう少しきちんと考えた上でやる必要があるんですよ』

『じゃあ、なんだ。しばらくは力だけを鍛えればいいってことか?』

『そうなりますね……。こちらでも一応そっちを鍛えるメニューを考えてはいるんですが、もうしばらく掛かるとは思いますから』

 ……便利なのか不便なのか。

 アーティファクトというものが、また少し分からなくなってきた。

「……頑張るか」

 誰にとも無く呟き、郁也はストレイドを地面から抜く。

 まだ疲れは抜けていないが、その程度でへばっていてはこの先が思いやられるだろう。

 そう自分の体に鞭打つ。

 仕切り直しだ。

 そう呟くと、再び郁也はストレイドを構えた。

 

 そしてその刹那。

 コン、と音がして、同時に頭に軽い衝撃が走った。

 

「は?」

 

 何が起きたのか分からず、とりあえずその衝撃が走った部分を抱え、周りを見渡す。

 すると、いた。

 郁也の左後方に、ため息を吐いているウィンが。

 

「気配に関しても疎いですよ……。郁也さん」

「……いや、そんないきなり言われましてもですねウィンさん」

 とりあえず困る。

 たった今、決意新たにさぁやるぞと意気込んだところなのに、いきなりけなされても、という感じだった。

「だから、その状況を見計らってやったんですよ。集中も一番する時でしょうし、これぐらいならと思ったんですけれど……」

「……てか、それ以前に何やったんだ? ウィン」

 訊いたと同時。

 また、大きなため息を吐かれた。

 

「投げたんです。普通の生き物みたいに気配がある、私が創った石を」

「は、はぁ?」

 

 もうさっぱりだった。

 何のことだよ、と首を傾げる。

 だが同時、先ほどのウィンの言葉を思い出した。

 

「え……何? もしかして今の、俺に石の気配を読めって言ったわけか?」

「……それ以外になにかあるんですか?」

「……うぐ」

 無かった。

 もう考えるまでもなくそれが分かり、もう一度唸る。

 

「ダメダメですね。郁也さん」

「やかましい」

 そんな自分を連れてきたのはお前だろうが。

 そう突っ込んでやりたかったが、それでも一応ウィンにはウィンなりの考えがあったんだろう、と留まった。

 郁也がそんなことをやっている間にも、ウィンは再びため息。

「先は、長そうですね」

「……もうあれだ。ぶっちゃけ俺を鍛えるより、お前が戦った方が遥かにいい。絶対に」

「そんなことありませんよ。それに、郁也さんがしっかりと鍛錬をすればすぐに私なんか追い抜かれますってば。ポジティブに行きましょうよ」

「んなことでポジティブになりたかない」

 というか、この少女の強さを目の当たりにしている時点で無理というものだ。

 あれを見て、『よーし自分はあれを超えるぞ!』などと意気込める奴を、少なくとも自分は知らないしそれどころか自分はそんな風ではない。

 故に、やはり無理。

 

「ですけれど、あまりネガティブになりすぎても上達はしませんよ?」

「そりゃまぁそうだろうけど……」

 精神状態によっては、何事の効率も変わることぐらいは郁也だって知っている。

 だが、それでもやっぱり無理なものは無理。

 

 そんなわけで、とりあえず今はウィンの言葉を無視することにした。

 

 素振り再開。

 

 ウィンが何か言っているが聞こえない。

 頬を膨らませてこちらを睨んでいるが気にしない。

 いきなりこちらに向かって歩き始めたが知らな――

 

「えーい」

 可愛らしい声と同時。

 ずっしりと――別に体重の表現ではない――いう効果音がピッタリに、ウィンが郁也の後ろから飛び掛った。

 

「へ? ――った、おわぁっ!?」

 

 当然、そんな不意の――見えていたのに――飛び掛り攻撃に、郁也は体重の支点確保に失敗。

 盛大にウィンを乗せたまま前のめりに倒れた。

 その反動で、ストレイドはその郁也の二歩ほど前方へ滑っていく。

 

「わ、郁也さんって結構背中大きいんですね」

「……狙ったな。お前絶対狙ったな今の一撃」

「お父さんみたいですねー」

「とりあえず、降りろ。今すぐ俺の背中から降りろ」

「にへらー」

「……オイ」

 にんまりと笑みを浮かべ、ウィンは郁也の背中の上で上下左右に揺れている。

 それは郁也が暴れるからであるのだが、とりあえず構図的に結構危ない。

 郁也が襲って――もとい、襲われているように見えるのだから。

 十歳に満たない少女に襲われる十七歳。

 

 ……想像しただけで寒気がした。

 

「ど、どけーっ!」

 とりあえず、今の状況が誰かに見られ、想像通りに誤解されてはもう自分の存在までもが危ないと判断した郁也は、半ば力任せにウィンを横へと落とした。

 いくら郁也とて、ウィン一人分を動かす力ぐらいは持っているのだ。

「ふぁ」

 そしてその郁也の力で、軽いウィンの体はころんと横へ転がっていく。

 

 ……この少女、時々精神年齢が変わってやいないか?

 そんな疑問を感じざるを得ない状況である。

 

「今度おんぶしてくださいよ」

「絶対に嫌だ」

 

 そしてその後、そんな会話があったとか無かったとか。

 

 

 

『力を付けたら、その次は戦闘の基本訓練ですね……。一回死地にでも追いやったら覚醒とか、都合よくしません?』

 そんな物騒なことを言い放ち、少女はこの場を去っていった。

 が、当然その後半に対する返事はノーである。

 というかそもそも死地などに追いやられれば、待っているのはそのまま死だろう。

 そんなことは御免蒙る。

 早く力つけよう。

 命のためにも。

 そう心からマジで思う少年一人。

 何というか、直接的ではない脅迫をされたと感じるのは自分だけだろうか?

 

「……続けよう」

 考えて数秒でそれはマイナスの考えにしかならないと思い至った郁也は、再びストレイドを手に取る。

 そして、とりあえずはウィンに色々言われてしまった自分に対する憂さ晴らしのため、思いっきりストレイドを一度だけ振り抜いた。

 

 ズプリ、と。

 馴染んでいるはずの無い感触を、同時にその手に覚えた。

 

「……な」

 

 馴染んでいるはずは無いが、それでも知っている感触。

 自分の持つ剣が、何かの肉を切り裂いた感触(、、、、、、、、、、、、)を。

 

 咄嗟に振り返る。

 

 振り向きつつ、半ば反射的に再度ストレイドを振るう。

 

 そして手に伝わる、同じ感触。

「くそ……ッ!」

 どうやら、本当に気配を読む力は無いらしい。

 今のだって、偶然当たったから、自分は生きられた(、、、、、)のだから。

 

 そして、自分にはもうそれだけが精一杯。

 だから郁也は、叫んだ。

 

 心の中で精一杯叫んだ。

 

『ウィン! ギルディスだっ!』

 

 だが、叫んだと同時。

 再三振るったストレイドが、ギルディスの放った一撃に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 さて、今回は前回のあとがきでも言ったように、郁也の鍛錬風景のお話ですね。

 まだまだ情けない郁也ですが、まだまだ成長途中。

 最後にはやはり主人公。強くなりますのでお楽しみにどうぞ。

 

 さて、今回はウィンの無邪気な面を出してみました。

 原作を読んだ方は、「いやお前キャラ違うだろ」とか思わないでくださいね?w

 まぁ読んでない方は、どういうことかは最後に分かりますのでお楽しみに。

 

 しかし……何でだろう。

 次回が、この話の最後からも分かるように戦闘描写がかなり増えます。

 戦闘光景を書く、なんて前回では言ってなかったんですが……

 ……適当ですね、自分。

 

 まぁ今更ですけどねっ(オイ

 

 ともあれ。とにかく次回は戦闘です初陣です!

 郁也の活躍に乞うご期待。




目次へ