Chapter6 其処での生活
「あの壁は、私のお父さんが設置したものなんです。幻を生み出して、同時に気配遮断の結界の効果をこの辺りに張る仕組みらしいんですが……」
建物の中――地下の空間に展開している廊下を、二人は歩いていた。
そしてウィンは、先ほどの壁についての説明を行っているところだ。
「……ウィンと同じ能力?」
「いえ。……えと、お父さんも同じ能力を持ってはいますが、あれは別物です」
「……分からない」
一体あの不思議現象が具現化の能力で無いとすれば、一体何なのだろうか。
いやまぁ、この世界に詳しくない郁也が、所詮何を考えたところで答えを出せるはずも無いが。
「なんと言いますか……。郁也さん、アーティファクトって分かりますか?」
「言葉上の意味だけなら何とか。古代文明の遺産とか、そんな感じのものだろ?」
「そうですっていうかそのまんまです」
頷くウィンに、古代にあんな高度な道具が作られているこの世界は一体、と思わずにいられなかった。
……やはり、自分達がいた世界とは完全に異なることを思い知らされる。
「つまりあの幻は、そのアーティファクトにそういう効果の物があって、それをお前の父親が設置した、と?」
「そうです。何でしたら、他にもアーティファクトはありますから後で見てみますか? 幾つか、郁也さんでも扱える物もあると思いますよ?」
「まぁ、それは時間があったらでいいよ」
それ以前に、今はやることが多い。
この世界へ来る前にウィンに言われたことを頭の中で復唱しながら、郁也はウィンの後へ続く。
ウィンが言ったのは、全部で四つ。
一つ目は、まずはここの住民に挨拶をして回り、顔を覚えてもらうこと。
これは、ギルディスの中には限りなく人に近い容姿をしたギルディスもいるため、そのギルディスと間違えられないようにするためだ。
勘違いで攻撃されては元も子もない。
二つ目は、もとの世界にいる、郁也の両親への連絡。
原理は未だに分からないが、ウィンの能力を用いれば向こうの世界へと物質の転送が出来るらしい。
だからこれは、郁也の両親に手紙を送り、しばらくは家に居なくなるということを伝え、さらに学校が再開すればそのことを学校へ連絡してもらうため。
幸い郁也の両親は、理解のある二人だ。
だから、こちらの真剣な様子さえ伝われば了承してくれるだろう。
三つ目は、戦闘に関する技術の向上。
戦闘に関してはからっきしの初心者と言っていい郁也には、むしろこれが一番の重要課題だった。
なぜウィンがそんな郁也に目を留めたのかは未だに分からないものの、結局は戦いで命を落としてしまっては結局は意味が無い。
だから、しばらくは実戦ではなく訓練や模擬戦を行って腕を上げる。
そして四つ目は、戦う術の入手。
正直、これが一番の問題だ。
郁也はウィンのような能力は持っていないし、武器も持っていない。
先ほどのようにウィンがいれば武器を作ってはもらえるが、ウィンが近くにいなければそれもアウト。
だから、それをどうやって得るかが今後の第一に考えるべきことだろう。
と、これだけだ。
一、二つ目はすぐに終わるので問題は無いが、やはり四つ目の問題は早急に解決する必要がある。
もちろん焦りすぎてから回りしても意味は無いので、適度に急ぐ、という感じだが。
「とりあえず、皆への挨拶を済ませますか? 郁也さんも、そっちの方が都合がいいとは思うんですけれど」
「だな。とりあえずここに住む以上、ここに住んでる人には挨拶しておきたいし」
「了解です。じゃあ、着いてきてください。一応は迷路化して侵入対策してある地下ですから……はぐれると迷いますよ?」
「……リアルに怖いこと言ってくれるな」
かなり確率が高いから。迷うこととか。
別に方向音痴というわけでは無いが、それでも立体迷路を抜けることが出来るほどの方向感覚は所持していない。
まぁ、道を覚えるまでは無闇やたらと動かない方が懸命ということだろう。
「大丈夫ですよ」
そしてその郁也の心境を読み取ったのか、ウィンが不意に笑みを浮かべた。
「迷っても、私が能力で探しますから」
「嬉しくない」
「ここからが居住区になります――って、説明したら、分かります?」
「とりあえず、この地下の地図を覚えるまでは分からないな」
というか、既に通ってきた道すら曖昧である。
「あの迷路はちょっとした法則性があるので、すぐに慣れると思いますよ。で……とりあえず、私のお父さんの所に行きましょう」
「ウィンの?」
「はい。正しくは私の住んでいる所なんですけど、郁也さんの部屋もそこにありますから。そのついで、ですけどね」
「……用意周到なことで」
「あはは……。もとより素質のある人を見つけてから戻るつもりでしたので、用意は出来てたんですよ」
まぁ、実を言うと用意されていなかったらされていないでそこらに雑魚寝するぐらいの覚悟はあったりしたのだが、それは割愛。
「とりあえず行きましょう。距離もここからあまり離れてませんから、すぐ着くと思いますし」
「……いや、近すぎる」
その扉を目の前にした郁也は、とりあえずそう呟いた。
あの場所から歩き始め三十秒。
つまりは居住区に入ってすぐのところにそのウィンが住んでいるという部屋に通じる扉があったのだ。
近いといわずに何と言おうか。
「遠い方が良かったですか?」
「いやまぁ、近いに越したことは無いけど」
近ければ迷う確立も格段に下がる。
なので、とりあえずのところ郁也にとってはそちらの方が都合がいい。
「郁也さんの部屋は、入ってからすぐ右の扉の部屋なんですけれど……先に部屋を見ますか?」
扉を開けながら、そうウィンが告げる。
「いや、とりあえずは挨拶が先だな。部屋を見るのはそれからだ」
さすがに挨拶も無しにそんなことをしては、失礼である。
これからはここで生活してくのだから礼儀はわきまえた方がいいだろう。
「分かりました。じゃあ着いてきてください」
そう言い、ウィンが扉の向こうへと入っていった。
郁也もウィンに続き扉の向こうへと入る。
だが。
入ってすぐの光景を見て、郁也の目は点になった。
ここは地下都市だ。
だから、ここへくるまでの道のりにあったのは全てがランプなどの照明器具だった。
それならば、ここもそうでなければおかしいはずだ。
……だからここは、おかしかった。
地下空間の、質素な灰色の壁。
そこには、
外の景色を映し出すための窓が。
それだけではない。
その窓には、確かに空が見えた。
青い、何処までも続く蒼々の空。
白い雲も流れている、確かな空。
それが、その窓にはあった。
「……どうなってんだ?」
その謎を、隣にいるウィンへと問い掛けた。
「えっとですね。それはお父さんが能力を使って、外の風景を映し出してるんです。つまり、ここと外の空間を繋ぐことで、外の風景を見れるような形にしてあるんですよ」
と、さも当たり前のことに言うウィンなのだが、対する郁也といえば、
「……もう、わけ分からない」
とまぁ。そんな当然の反応。
「能力を使える人にしかこの理屈は分かりませんからね……。でも、簡単にでよかったら後で説明しますよ?」
「頭が痛くならない程度なら、是非頼みたいな」
「大丈夫です。能力の仕組みを説明するだけですから」
その仕組みが難しいんだって、と突っ込む前には、ウィンは室内の奥のほうへと歩いていってしまった。
突っ込むために開かれた口は少しの間停止していたが、それも郁也のため息と共に動く。
そしてそのため息を吐いた郁也は、もう先へと行ってしまったウィンを追いかけた。
「ただいま、お父さん」
空間内の一番奥。
そしてその声に男性が振り返り――驚愕に目を見開いた。
「ウィン……帰ったのか?」
そして男性は、ウィンへと向けてそう声を放った。
「私はファルノ=フェンライトだ。さっきは……取り乱してしまってすまなかったな」
先ほど、窓から空を見ていた男性が話を変えるようにそう口を開いた。
「あ、澄川郁也です。でも、俺こそ感動の再会をぶち壊しにしちゃって――」
「いや謝らないでくれ。そもそも君をこんな場所へ連れてきてしまったのは私達だ。謝りこそすれ、謝られることなど一つも無い」
そう言って苦笑を浮かべる様子は、やはり親子だからか。
多少の違いはあるもののウィンのそれと似ていた。
「さて、とりあえず私とは夜にでも話は出来るから、とりあえずウィンは郁也君を案内してやってくれ。それと迷路を抜けるコツもな」
「あ、分かりました」
……迷路のコツって、何だろう。
少なくともそれは初耳だ。
もしくは、それがさっきウィンの言っていた法則性だろうか。
「行きましょう、郁也さん」
「あ、あぁ。分かった」
とりあえずはそれも分かるだろうと、郁也は腰を上げる。
そして最初に向かう先。ウィンに案内されて向かうのは、他でもない郁也の部屋となる部屋だった。
移動所要時間、五秒。
「着きました。ここが郁也さんの部屋ですね」
「切り出しにそれを使えるお前は凄いよ」
というか、そもそも見える場所へと辿り着けないほどの方向音痴ではない。
しかもファルノと話す前に説明されたばかりだ。
迷う方がどうかしている。まぁそれはさて置き。
ウィンが先行して扉を開け、そこにあった部屋は十畳ほどはある部屋。
「……デカいな」
そして自室は六畳間という郁也にとって、その部屋を見ての第一感想はそれだった。
さらにその部屋には、ベッドや服の収納、他にも机などという生活必需品までもが一通り揃っていた。
「郁也さんの家にいる間、必要そうな物をお父さんに念話で伝えておいたんです」
「で、俺が来るまでに予め用意しておいた……と」
「そういうことですね」
「世界間を超えてまで話せるなんて、何度も言うけど便利な能力だこと……」
まぁ、世界間を超えてまで会話する相手のいない郁也にとってはどうでもいい能力でもあるのだが。
「ちょっと、普通の念話とは仕組みが違うんですよ――って、ついでに能力の説明を済ませますか?」
「あー、じゃあ、頼む」
「はい。じゃあ――」
と、そのままウィンが話し始めようとしたもので、郁也がそれを制する。
「とりあえず、立ち話もなんだろ」
そう言って、郁也はベッドを指差した。
座って話そうという意思表示である。
ウィンもそれに逆らう理由は無く、はい、と頷いてその縁に腰を下ろし、郁也もその隣に座った。
「それで、ですね。そもそもこの能力というのは、能力の所持者が想像したもの全てを、現実に創りだす能力です。
もちろん想像していないものは創りだせませんし、同じように想像出来ないものを創りだすことも不可能です。
ここまではいいですか?」
「まぁ、何とか。つまりは思ったことが現実に起こる、そんな感じに考えればいいんだろ」
「はい。というか実際にそんな感じですから。
で、そんなこの能力ですが、当然リスクもあります。それが、意識を向ける方向の強制的な固定。つまりは、全く同じことを考えていないと駄目なんです」
「……つーと、何だ。その能力を使って、しかも維持するためには、その能力の形とかをずっと頭に浮かべておかないと駄目ってことか?」
「はい。想像していれば半永久的にそれは存在しますが、逆を言えば、その考えを無くした時点で能力で生み出した全ては消え去ります。
もっとも、実体のあるものに限られますが。治療とかそういうのに能力を使った場合は、治療の効果は消えますがそれによって治療したもの自体は消えずに残ります」
「……大規模な物であればあるほど、意識がそっちの方に刈り取られるってことか」
「そういうことです。だから私はお父さんは、この能力を使うためにそういう訓練もしています。同時思考――つまり、複数の物事を同時に考えられるように」
そういうのならば、こちらの世界でも聞いたことがある。
というか、そういう人は実際に存在する。
会話をしつつ本を読んだり、つまりはそういうことが出来るということなのだろう。
「だから、実際に戦ったりする場合は、そのせいで少しだけやり辛くなってしまうんです。実物の剣とかそういうのを持てば話は別ですけどね。
それでもう一つの決まりなんですが、実体のあるものと無いものの想像。これは根本的に想像の肯定が異なるんです。
例えば実体のあるものを創りだす場合は、その細部までを頭の中で想像する必要があるんですね。前に言った、服の染みがいい例だと思います。
服の染みを消すためには、染みが着く前の姿。それを完全に消し去るイメージ。この二つを思い浮かべる必要があるので、少し面倒なんです。
対して実体の無いものなんですが、これはその効果を想像して、それを現実に生み出すためのイメージに組み合わせると、それの発現が可能になります。
……つまり、ここへ来る時に使った次元の狭間みたいなものです。世界間を繋ぐ効果を、空間の歪みというイメージに組み合わせたので、ああいう形になったんです。
……これ以上は本当に頭の痛くなってしまう話なので、これぐらいで。……えっと、分かりましたか?」
「……ん、多分大丈夫だ。これでも物理とか科学とか、そういうものの単位はいいからな」
まぁ、この非常識な能力にそんなものが通用するとは思えないが、理解するに関しては無いよりはマシだ。
それはウィンも分かっているのか、軽く苦笑を浮かべながら頷く。
「でしたら大丈夫ですね。じゃあ、郁也さんはご両親に手紙を書いてください。私がそれを送っておきますので、それ次第、地下を案内しますね」
「……」
「えっと、そういえば案内の前にここまでの迷路の法則を説明しておきますね」
そう言い、扉から出たウィンは、先ほど二人が入ってきた通路へと視線を送る。
そしてぴっと指を三つ、立てる。
「法則は全部で三つです。
一つ目は風。この場所からは、出口に向かって微量なんですが風が流れるようになっています。ですから、それを頼りにしてください。つまり、出る時は常に追い風になるように進めばいいです。
二つ目は十字路。迷路を進んでいる時に十字路に差し掛かったら、真っ直ぐ進んでください。左右は、絶対にはずれの道ですから進まないように気をつけてください。
そして三つ目が壁沿いに歩くこと。これは敵に追われたりして、最初の風の確認が出来ない時の緊急用です。この迷路は、入る時は右。出る時は左側の壁沿いに歩くことで、遠回りですが抜けることが出来ます。
ただ、その時も十字路の法則だけは忘れないでください。
この三つさえ覚えておけば、郁也さんでも迷うことは無いと思います。まぁ……一番いいのは、道を覚えてしまうことなんですけれどね」
「三つの法則はさて置き、最後の覚えるは時間が掛かるな……」
苦笑交じりに返す。
物理と科学は得意でも、地図に関してはそこまで強くはない郁也である。
道を覚えるのは結構な時間を要するはずだ。
「時間を掛けていけばいいと思います。時間はたくさんありますし」
「だな。んじゃま、案内兼挨拶回りと行こうか?」
「はい、道案内は任せてください」
そんな頼もしい言葉と共に、ウィンは先頭を切って歩き始めた。
「今の家で最後、か?」
扉を閉め、郁也は確認の意も込めてウィンにそう問うた。
歩き始めて分かったのだが、この地下空間の居住区、基本的には正方形を描く様な形になっていたのだ。
つまり、実際にここから見えるのは直線の通路と、その至るところにある扉。それだけ。
そして郁也達は、その最後の扉の奥の住民への挨拶を済ませたところだった。
その証拠にその隣の扉はウィンの家の扉だ。
「そうですね。ここで、居住区の案内する場所は最後です。……といっても、簡単な道ですから、案内するまでもなかったと思いますけれど」
「いや、助かったよ。てか、一人だったら他の人の家に入る勇気なんか出てこない。で、そんなことよりも。『居住区の』ってことは、まだ案内する場所があるのか?」
「はい。えっと、私達は収納区って呼んでいるんですが、基本的には色々な物をしまう。そんな場所です」
「? 何で、俺をそこに案内するんだ?」
「ほら、さっき郁也さんにも話しましたよね? アーティファクトのこと。それはそっちの方に置いてあるんです」
あぁ、そういえば。と先ほどの会話を思い出す。
そう言えば、そんな話もあった。
「じゃあ、何だ。つまりは俺が、扱えるような物を探すのか?」
「はい。戦う術の確保はある意味最重要過程ですから、早めにやっておいて損は無いでしょうし」
「なるほどねぇ」
実際にそのアーティファクトがどんな物かは分からないので実感のようなものは湧かないが、ウィンがそう言うのならそうなのだろう。
そう自分を納得させ、ウィンの言葉に頷きを返す。
「仮に郁也さんが使える物が無くても、私が能力で、鉄か何かを剣に加工すればいいんですが……やっぱり、ある程度は使える物を使うのに越したことはありませんから」
「まぁ、それは同感だけどな」
こちらとしても、ただ自身の力だけではなく武器にも頼れた方が心強い。
まぁもっとも、それは郁也自身がまだ弱いことを自覚しているからでもあるのだが。
とにかく、と郁也は会話をそこで打ち切る。
「まずは行ってみてからだ。その後のことは、それから決めればいいだろ」
「一口にアーティファクトといっても、実際は結構違いがあるんです」
収納区への道を進みながら、ウィンはそう教えてくれた。
「アーティファクトはそれぞれランクによって分けられていて、『RankT』から『Rank]U』まで、数字が下がるほどにそのアーティファクトの持つ効果などが強くなっていきます。
……ただ、Rank]Uだけは例外で、本来アーティファクトはRank]Tまでしか存在しないんですが、その力が失われてしまって、アーティファクトとしての機能を失った物を私達はそう呼んでいるんです」
「剣道の級みたいだな……」
「はい?」
「いや、こっちの話」
こちらの世界の住民のウィンに、今の話が通じるはずも無かった。
不思議そうに首を傾げるウィンだが、説明するだけ無駄だろう。
「それはいいとして、収納区はまだなのか?」
なので、話題を変えることにした。
「え? あ、そうですね……収納区にはもう入っているんですが、アーティファクトが収めてある部屋まではあと少しだけ歩きます」
「一体どれだけ広いんだよ……ここは。てか、こんなに地下をくり抜いて平気なのか?」
本当、重みに耐え切れず天井が崩れてこないのが不思議なぐらいである。
「一応その辺りは計算されてますから。掛かる負荷はそこまで高くは無いんです」
「……一体、どういう計算したのか不思議で仕方ないよ」
物理が得意である郁也の、本音だった。
……まぁ、崩れないのならいいか、と。
もはやこの世界には向こうの世界での物理法則とか、きっと通用しないんだなどという歪んだ結論を出し、郁也は無理矢理に納得することにした。
というか、実際その物理法則を覆す物がこの世界には幾つもあるのだ。
考えるだけ無駄なのだ、きっと。
「あ、着きました。この部屋です」
そしてそのまま歩くこと二分ほど。
ウィンが一つの扉の前で立ち止まり、言いながらその扉に手を掛けゆっくりとその扉を開いた。
「……多いな、オイ」
そして、その部屋に入った郁也の第一感想がそれだった。
そこは広さにして十畳ほどの部屋。
だが、その半分が、なにやら得体の知れない物体――それがアーティファクトなのだろう――に埋め尽くされていたのだからその感想も無理もないが……。
しかし、やはりこれは多すぎやしないか?
整理されて置いてあるとはいえ、その数は間違い無く百を軽く超えているように見える。
……まぁ、全てがそこまで大きなサイズではないのが救い、か。
「でも、これだけあっても一番高い位はRankWぐらいなんです。RankV以上ともなると、もう存在する数自体が少ないんですよ」
「なるほどね。で、俺が使えるのって、大体どの位からなんだ?」
「そうですね……実際は全部郁也さんでも扱えるんですが、やっぱりなれない内はその力を暴走させてしまうこともありますから、とりあえずRank]以下……ぐらいが丁度いいと思います」
そう言って、ウィンは慣れた様子でそのアーティファクトの間を歩いていく。
……だが、郁也は郁也で下手して何かが起こると怖いので、その場で待機することにした。
「あ、あの、郁也さん? そんなに警戒しなくても、触っただけで何かが起こるものはありませんから……」
そして、そう振り返ったウィンに突っ込まれる始末だった。
「とりあえず、戦闘に使えそうな物を幾つか持ってきました」
しばらくアーティファクトを物色していたウィンが、そう言いながら郁也のもとへと戻ってきた。
……その腕に、何とも物騒すぎる物を幾つも抱えて。
「……あの、ウィンさん?」
その物騒な物を視認し、半眼冷や汗という表情になりながら、郁也はそのウィンへと言葉を掛けた。
「何ですか? その剣とか槍とかとにかく物騒すぎる素晴らしい品々は」
「? これもアーティファクトですけれど……どうかしました?」
そう小首を傾げ、問い返された。
「……違う。何かそれは俺のイメージしていた物とは違う」
何が違うかといえば……もう、とにかく全てだ。
そんな見るからに実用性溢れる武器ではなく、もう少し変わった形の物を想像していたのに。
現実は厳しい、ということなのだろうか?
「仕方ないですよ。この位のアーティファクトになると、シンプルに設計された物しか無いんです」
「シンプルか? それがお前の中ではシンプルなのか?」
少なくとも郁也の思うシンプルは、そんな実用性溢れる武器などでは決して無い。
だが、そんな郁也の意味無き反論は、
「とりあえず、外にでて実際に使ってみましょうか」
その次の笑顔のウィンの言葉にぶち壊された。
あとがき
皆さんどうも、昴 遼です。
さて、異世界編突入二話目にて早速わけの分からない単語が飛び出してきましたね。
アーティファクト。説明はわかりにくいとは思いますが本文中を参照です。
さて、これでやっと元祖RAGNAROKキャラが勢揃いですね。
場合によってはあと数人、新キャラが増えるかもですが……そこは今回は割愛。
とりあえず、察しのいい方は気付いたとは思いますが、今回は郁也がさっさと能力を手に入れません。
しばらくはアーティファクトが彼の主力になるとお考えくださいな。
……あ、もちろん能力は入手しますけどね?(ぁ
さてさて、ネタバレはこの辺りにして、本日は失礼。