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 酔いそうに揺れる錯覚を覚える空間を抜けた先。

 ウィンが開いた、時空の狭間を抜けて辿り着いた先は、当たり前だが見たことの無い世界だった。

 荒廃した大地が広がり、風はただ虚しく吹く。

 見た限り、そこに生きたものは何も存在していなかった。

 たった今ここを訪れた、二人を除いては。

「……」

「驚きましたか?」

 言葉を失う郁也に、ウィンは首を傾げながらそう問い掛ける。

「驚いたというよりは……いや、うん。驚いた」

「ですよね。こんなボロボロの世界、驚くのも無理はありませんから」

 苦笑を浮かべるウィン。

 そのウィンを見やりながら、郁也は一つの疑問を浮かべる。

 

「なぁウィン。この世界には、誰かいないのか?」

 

 そう。

 この世界には、生き物がいなさ過ぎる。

 世界を救う云々という時点で少ないことぐらいは予想していたのだが、これは異常だ。

 滅ぶかも知れない世界、なんて生ぬるいものではない。

 これはもう、滅ぶ直前の世界だ。

「いますよ。ただ、ここへ来るとき通ったあの道は、時空を半ば無理矢理に歪めるものです。ですから、少なからず周りに影響を及ぼしてしまいますし――何より」

 

 サク、と。

 足音がした。

 

 それも一つではない。

 幾つも足音が重なり、一種の雑音にまで聞こえた。

 

「その歪みを察知して、彼等が寄ってくるんです」

 足音の主。ギルディスを見据え、ウィンは答えた。

「郁也さん、突っ切ります。私の後ろから離れないでください。――それと」

 頷こうとした郁也の目の前で、ウィンは手を振る。

「【剣】」

 そして現れる抜き身の両刃の剣。

 それを、その郁也へと手渡した。

「無いよりはマシだと思います。いざとなれば、それで彼等を切ってください」

「……」

 だが、郁也はその言葉に答え損なった。答えれなかった。

 生き物を――例えそれが如何なるものでも、生きているものを切ることに、躊躇、戸惑い。そんなものを覚えてしまった。

 それを感じ取ったのか、ウィンはその郁也の瞳をじっと見据え、

「駄目です。躊躇をするのは分かりますけれど、でも。躊躇や戸惑いは郁也さん自身の死を招くことだってあるんです」

 そう言った。

 正論だ。

 そんなこと、郁也とて分かる。

 だが、正論だけでは――納得できないことだってある。

 ギリ、と、剣を持った手を強く握る。

「分かった……」

 だがそれでも、郁也は頷いた。

 決めたのだ。

 自身の意思で決めたことを、自分がやり通さずどうするのか。

 だから覚悟を決める。

 剣を一振。それの重さを確認すると、慣れないながらも構えやすい形にそれを構える。

「いきますよ! 郁也さんっ!」

 そして、叫んだウィンの後ろに続き駆け出した。

 

 

 

 Chapter5 全ての始まり

 

 

 

「……ん?」

 不思議そうに、不意に薫が首を傾げた。

「どしたの?」

 それにその隣を歩いていた華奈が返す。

「いや……何か、忘れてる気がする……」

「? 忘れてるって……何を」

「いやそれが分かったら悩まないけど」

 ただ、違和感の様な何かが胸に引っかかっていた。

 大切な何かを忘れている。そんな感じに。

「変な薫だねぇ。郁也の家で何か変なものでも食べた?」

「……なんも食ってねぇだろ、俺等」

「つまみ食いでもしたのかなー、って」

「お前じゃあるまいし……――っつぉっ! いきなり殴りかかるか普通!?」

「あははー。手が滑ったんだよ」

「……」

 どうやったら空中で手がすべるんだろうとは思ったが、突っ込めばまた殴りかかられそうな気がした。

 だからあえて突っ込むことはやめ、話題を元に戻す。

「何か忘れてるんだよなぁ……何だったかなぁ」

「思い出せないことなんて、実はどうでもいいこととかなんじゃないの?」

「……そんな気がしないから悩んでるんだって」

 確かに忘れてしまったことには違いは無いのだろうが……それとこれとは話が違う。

 とにかく、と咳払いと一緒に言うと、薫は空を仰いだ。

「明日辺りに郁也にでも相談してみるかなぁ……」

「? どうして郁也なの? というか私は?」

「いやだって、こういうことに関しては郁也の方が頼れるし」

 それは嘘ではない。

 昔から郁也には相談に乗ってもらっているし――主に華奈のことだが――その度にしっかりとした返答を貰っている。

 ……まぁ、その答えを実行していないのは自分だが。

 ともかく、そこはそんな感じで本当に郁也の方が信用できたのだ。

「ふーん、まぁいいけどねぇ」

 つまらなさそうにそう返すと、そっぽを向く。

 自分に相談してもらえないのがつまらないらしい。

 ……どうせ、たった今相談していたことなんか既に忘れているのだろう。間違い無く。

 これだから華奈は頼りにならないのだ。

 ――そこを好きになってるんだけどなぁ……

 それを言葉に出せたら、どんなにいいことか。

 そう苦笑を浮かべながら、もう一度空を仰ぐ。

  

 空はいつも通りに青い。

 

 そんな代わり映えのしない光景。

 だから、二人は既に事態は動き始めたなんて、思い出しはしなかった。

 

 

 

「ウィン! 右だっ!」

 声高く郁也が叫ぶ。

 それに応え、ウィンの片腕が右の空気を裂いた。

 そしてその手に持っている剣が、たった今ウィンへと襲いかかろうと身構えていたギルディスを切り裂く。

 

 ここへ来て、分かったことが一つあった。

 まず、ギルディスの容姿や強さが、見て分かるほどに違うのだ。

 郁也の世界では完全に異形となっていたギルディスも、この世界ではある程度は人型を保っていたり、その強さも、かなり弱いと見ることが出来た。

 何せ、戦いに不慣れな郁也でさえ、既に何体かのギルディスを葬っているのだから。

 まぁ今はそれはさて置く。

 

 問題は、こちらだ。

「数が多いですね……」

 ウィンが小さく呟く。

 そう。

 容姿、強さ云々の前に、問題はその多さにあった。

 見た限り二十体程度のギルディスが、完全に二人の進行方向を塞ぐように立ち塞がっていたのだ。

 知性を持って、そして学習をしているのだろうか。

 おそらくギルディスは、二人の逃げようとしている方向を本能的に察知し、そこへと移動しているのだろう。

「何とか突き抜けれたらいいんだけど……。ウィン、強引に何とかできないか?」

「難しいかも知れません……。私自身この力に慣れていませんから、そういうことのイメージはあまり沸かないんです……」

「なるほど……」

 自分がその力を使えたら、とは思うが、それは無理な話だ。

 そう言った知識とかならば間違い無くウィンよりも多い郁也は、そう言ったことをイメージするのは得意なのだが……それだけの話。出来なければ意味は無い。

 だが、そんなことを考えている間に、ほんの数センチ前をギルディスの腕が通った。

 その勢いに、髪を数本。千切って持っていかれる。

 思わず鳥肌が立った。

 当たったら、と。戦場では命取りになる――といってもそんなこと、戦場に立つことの無い郁也が知る由も無いのだが――そんなマイナスの考えを抱いてしまう。

「郁也さんは敵の薄い前だけに集中してください。他は全部、私が請け負います」

「り、了解」

 もはや逆らう気など起こるはずも無い郁也は、その小さく返して頷いた。

 そして、すぐに意識をウィンの言った通り。前の一点へと向けた。

 

 そこから視認できるギルディスの数は、五体。

 数ならば確かに――というかもとより負けているが……このギルディスの強さならば、と慣れない思考を働かせて考える。

 囲まれる心配は、おそらく無い。

 ――五体ぐらいなら、何とかなる!

 そう結論を出して郁也は地面を蹴った。

 とは言っても、何の訓練も受けていない郁也だ。

 短距離走を走り出す、そんな程度の速度しか出るはずは無い。

 だが、それでもこの距離を詰めるには一瞬。

 そしてその一瞬が勝負。

 五体いるギルディスの、だがその中のどれよりも早く郁也は剣を下から上へ跳ね上げた。

 それにやや遅れ、一体のギルディスの腕が振り下ろされるが――遅い。

 勢いはこちらが完全に上回っており、その上相対速度の関係が、その一撃の威力を高めているのだ。

 その攻撃の交差で、ギルディスが勝る要素は無い。

 

 ギン! と金属音にも近い響きが聞こえ、そのギルディスの腕が綺麗に切断され、宙を舞った。

 ――今、だっ!

 そして一閃。

 手元へと引き寄せた剣を突き出し、一体のギルディスを完全に仕留めた。

 ……が、忘れてはならない。残り、まだ四体もいるのだから。

 

 剣を引き戻した時には、今度はこちらが遅かった。

 視線の先では、既に残りのギルディスが腕を振り上げ、今まさにそれを振り下ろさんとしていたのだ。

 体が戦慄く。

 防御――いや、無理。

 本能的に、だが瞬間的にそれを判断するや否や、郁也は思いっきり後ろへと跳んだ。

 だが、それが最善の選択肢かは分からなかった。

 たかだ郁也の跳躍力では下がれる距離は知れており、そのギルディスの攻撃は、郁也の足を傷つける。

 致命的でも重傷でもないその傷は、だが慣れてはいない郁也にとっては激痛。

 その激痛に表情を歪めながらも、郁也はウィンの背中へと辿り着いた。

「悪い、ウィン……。やっぱ一人無理」

 そんな情けない言葉。

 だが、ウィンはそれを納得したように頷いた。

「いえ。もとより訓練なんかしていない郁也さんですから、もう何体も仕留めてるだけでも上出来ですよ」

 そう慰めの言葉をかけてはくれたものの、だがその一瞬で状況は悪化していた。

 今まで郁也やウィンが相手をしていたギルディス。

 それらが今、今度こそ二人を完全に取り囲む形になってしまっていたのだから。

「仕方ないですね……」

 

 そんな中、どうしようかと考えていた郁也の隣で、ウィンがため息混じりに呟いた。

「これ使うとかなり疲れるんですが……郁也さん、しっかり私に掴まってください」

「へ……?」

 何故? と聞き返す暇は無かった。

 いや……聞き返す前に、その理由はすぐにわかった。

 何故ならば――

 

「【翼】」

 

 ウィンの背中から、いきなり純白の翼が生まれたのだから。

「飛びますよ! 郁也さん!」

「は、はぁ!?」

 反論をする暇は、無かった。

 次の瞬間には郁也は腕を掴まれており――一瞬で、空の人と化した。

 

 

 

「……死ぬかと思った」

「大袈裟ですよ、郁也さん」

「んなわけあるか」

 現に郁也の心臓はさっきから高鳴りしっぱなしだった

 実際、普通ならば鳥が飛ぶような高さを、ただ腕を掴まれているだけで飛んでいたのだ。

 いつ落ちるかもしれない恐怖に怯えながら、本当に心臓が止まる思いをしたのだから、それも頷けよう。

「まぁ、あいつらを撒けたのはよかったけれど」

 そう言って振り返った先にあるのは、変わらぬ、荒れ果てた地だけ。

 そこにギルディスの姿は無かった。

「飛行能力を持ってるギルディスは稀ですからね。飛べば、追いかけて来れることはまず無いんです」

「へぇ……」

 ぶっちゃけ、空を飛ぶなど夢のまた夢である郁也には全く縁のない話だった。

 まぁともかく、と郁也は視線を正面へと戻す。

「で……これは何だ?」

 その視線の先にある物を見て、そう言葉が漏れた。

「都市、です」

「……都市、ねぇ」

 その視線の先にある物。それは、大地と同じく、荒れた建造物の立ち並ぶ一つの廃都市だった。

「明らかに人が住んでるようには見えないんだけど」

「見かけだけですよ。ここ以外にも、離れた所には同じようなところがありますから」

 しかし、郁也はその言葉に納得など出来ていなかった。

 見かけも何も、屋根は崩れ落ち、窓は割れ、穴の開いた壁。それらが見られない建物など無いというのに、果たしてそれの何処に人の住めるスペースがあるというのだろうか。

 それを疑問に思いながら、だが歩き始めたウィンの後ろに郁也も続いた。

 

 そして、歩き始めて五分。

 不意にウィンはその歩みを止めた。

 思わずその背中にぶつかりそうになったが、辛うじて堪える。

「どうした?」

「ここから、中に入ります」

 と、そう言ってウィンが視線を向けた先。そこには――

 

「……えっと」

 

 壁が、ただあった。

 

 何かの悪い冗談か、と思ったのだが、ウィンは構わずその壁へ向かって再び歩を進める。

 思わず静止の声が口から漏れるが、ウィンはそれを聞き入れない。

 

 やがて壁は、ウィンの鼻先まで迫り――その壁にウィンが触れんとした刹那。

 

 音も無く、その壁はまるで初めからそこに無かったかのように消え失せた。

 

「は?」

 呆けた声が口から漏れる。

 だが、ウィンはそんな郁也にもただ笑みを向け、

 

「ようこそ、郁也さん。私達の地下都市(住む場所)へ」

 

 そう、崩れることの無い笑みと共に告げた。

 

 

 

  あとがき


 皆さんどうも、昴 遼です。

 はい、おまたせした。

 異世界編突入です。

 まだキャラクターは出てきてはいませんが、それは次回です。

 で、今回はあまり時間軸も進まず、話も短いですので書くことも無いですね……。

 そんなわけで、今日はこの辺りで失礼します。




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