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 Chapter2 異世界の少女

 

 

 

「……ここ、何処?」

 その少女に向けて、郁也はそう問うた。

「えっと……丘の上です。あの場所だと目立つので……」

「……目立つ?」

「覚えて、無いんですか?」

 頷きを返す。

 少女の言うことが、郁也には分からなかった。

 というか、先程まで自分は帰路を郁也いていたはずなのに……何故丘の上まで来ているのか。

「てか……俺を運んだのは、君?」

「あ――私はウィンです。ウィン=フェンライト」

 名乗られた名前は、明らかに日本人のものではなかった。

 確かに容姿は日本人離れしているが――

 いや、と首を振る。

 今はそんなこと、多分どうでもいい。

 それ以前に……何だろう。この身長容姿、どれをとっても郁也と年齢が近いとは思えない。

 それでなお運んできたというのならば、それは一体凄いことなのではないか。

「じゃあ、ウィンで。……で、そうなのか?」

「そうですけど……えっと――」

 そこで口篭もり、こちらの顔を窺うように見る。

 それでピンと来て郁也は口を開いた。

「あぁ、俺は澄川郁也だ」

「郁也さん……でいいですか?」

 頷く。

「じゃあ郁也さん、改めて訊きますね。さっきのことは……覚えていますか?」

「いや……全然」

「……郁也さんは、たった今襲われたんです。向こうの道で、真横から」

 俯いて言う台詞に、郁也はふんふん、と頷きかけ――

「……は?」

 ちょっと待て、と。

 今、聞き逃せない言葉が出てきた。

 ――俺が……何だって?

「襲われたって……俺がか?」

「はい。……まだ、思い出せませんか?」

「ちょっと待ってくれ……。思い出すも何も……それは本当か?」

「嘘はつきませんよ。こんなことで」

「……」

 言葉を失う。

 そして、とりあえずは記憶を辿ってみる。

 バイト先の喫茶店で夕食を食べたこと――覚えている。

 二人と別れ、帰路へ着いたこと――覚えている。

 帰路を郁也いて、家に向かったこと――覚えて……いる?

「あれ……」

 家に向かい……何があったんだっけ。

 家には確か着いてなかったはずだ。

 ……じゃあ何が――

 

 そう考えた、刹那。

 

「っ! まだ生きて……っ!」

 憎々しげに言葉を吐いたウィンが、郁也を横へと突き飛ばした。

「う、おぉっ!?」

 いきなりの事で受身など取れるはずも無く、郁也の体は成す術無く地面を転がる。

 そしてまた、その刹那。

 衝撃が背中の方から、地面を伝わって響いた。

「な――っ!?」

 何が、と言う間もない。

 気が付けばその衝撃に体はさらに地面を転がり、五メートルほど転がったところでやっと止まった。

 手は、足は。動く。

 幸い五体満足らしい。

 そのまま体を起こして、衝撃が走った方向を見た。

 そしてそこには。

 

 ウィンと対峙するように、異形の生き物がいた。

 

「……あ――」

 そして同時に思い出す。

 自分を殺そうとしていた、あの存在のことを。

 それは間違い無く、あれだ。

 間違えるはずも無い。

 そして自分を助けたあの小さな存在は多分――

「逃げてくださいっ! 郁也さんっ!」

 その異形の生き物と対峙していた、ウィンだ。

「逃げるって――お前を置いてか!?」

「私は大丈夫です! 私なら、戦えますから(、、、、、、)!」

 ウィンと対峙する相手の触手が、振り上げられる。

「ウィンっ!」

 気が付けばそう叫んでいた。

 郁也の足を、軽々と折った一撃だ。

 あんな華奢な体が受ければどうなるかは、想像に容易い。

 ――……え?

 だがそこで、違和感を覚えた。

 

 足は……折れているか?

 

 その答えは否。

 確かにあの時足を折られたはずだ。

 それなのにその足は今、郁也の体をしっかりと支えている。

 いやそれどころか、痛みすらない。

 ――……どうなってるんだ……?

 何が何だか、まるで理解できない。

 そういえばそうだ。足だけではない。

 それは、体全体にも及んでいた。

 あの異形の生き物にやられたはずの全ての傷や痛みは、まるで初めから無かったかのように消え去っていたのだ。

 ……いや、そうだとしても、考えるのは後にしよう。

 今はむしろ好都合。

 ウィンに何かがあれば、自分がウィンを連れて逃げなければならない。

 自分の体に何が起こったかなど、二の次なのだ。

 見れば、異形の生き物の触手は、既にウィンのいた位置に振り下ろされた後だった。

「ウィン! 大丈夫か!?」

 だから叫んだ。

 最悪の状況を想定しながら、それでもあの華奢な体の少女が生きていることを願って。

 ――だが。

「私なら大丈夫ですよ、郁也さん! ですから早く、逃げてください!」

 返ってきた答えは、最悪でも最高でも無く、ただ予想外のものだった。

「無理言うなっ! お前だけを置いて逃げれるわけないだろうがっ!」

 だからそう叫び返す。その予想外の返答に。

 もっとも、その時によく考えていれば気付いたことなのだろう。

 ただその時は頭がそこまで回らなかったのも致し方ないのだが。

 とにかく、気付いてもよかったはずだ。

 

 あの一撃の後だというのに、ウィンの声には何ら変化も無かったことに。

 

 衝撃などで飛んでくる石から顔を守るために動かしていた腕をどかした。

 そして視界が晴れ、その様子が鮮明に目に映った。

 

 異形の生き物と対峙するウィン。

 そして、その手にある、一振りの剣。

 

 その剣は、振り下ろされたはずの触手を受け止めていた。

 あの腕のどこにそんな力があるのか疑問でもあったが、それ以前に。

 あのウィンの持つ剣は、一体どこから現れたのか。

 先ほどまで見ていた限り、ウィンはそんなものは持ってすらいなかった。

 それなのに今はある。

 ――……何だよ、これ

 だからこそ、もうそろそろ分かってきた。

 いや、頭が半ば自動的に理解をしていた。

 だがそれでも理解できないことは一つ。

 

 あの少女は――一体、何なのだろうか。

 

 

 

 ズン、と重い音が響いた。

 つい先ほどまでウィンと対峙していたあの生き物が、地面に落ちる音だ。

 

 まず、ウィンはあの生き物に勝った。

 もちろん無傷に近い状態……とはいわないが、それでも郁也を守りながら戦っていたので、それも致し方なかったのかもしれない。

 だがそれでも言えることは一つ。

 この少女の身のこなしは、多分。そこらの大人が数人束になっても勝つことは叶わないだろう。

 そして同時に、今の生き物が仮に郁也のいない一対一の状態であったのなら、彼女は間違いなく、今の半分以下の時間で封殺できるはずだ。

 だがそれだけを分かっていながら、口を開くことは出来なかった。

 頭でそこまでを理解しても、口がそれを言葉にしようとはしなかった。

 何も、言えはしなかった。

 

 ふぅ……とウィンが息を吐くと、剣を持っていた手を一度振る。

 すると、まるでその剣は掻き消えたように、大気に溶けて消えた。

 そしてすぐに、真っ直ぐな瞳でこちらを見た。

「大丈夫ですか……? 郁也さん……」

 そして心配する様なその言葉。

 この少女の真意が、正直分からなかった。

 あの生き物が現れたと思えば、この少女もまた現れ、まるでタイミングを計ったように自分を助けてくれた。

 おそらくそれは偶然なのかも知れない。

 だが、少女と生き物が同時に現れたことや、だがその生き物を倒した少女。

 その関連性が――どうして少女はここにいて、あの生き物がここにいるのかが、まるで分からない。

 この少女は、一体何者なのだろう。

「……なぁ、ウィン」

 返答はしなかった。

 それ以前に、訊きたかったのだ。そのことを。

「お前は……何だ?」

 この問いの、答えを。

 

 返答が来なかったことに一瞬戸惑ったような表情を浮かべたウィンだが、それでもこちらがふらつくこともせずに真っ直ぐ立っているのを見て、大丈夫だと分かったのだろう。

 肩を竦めて表情を戻すと、口を開き、

 

「私は、ウィン=フェンライト。こことは違う世界――異世界の住民です」

 

 そう告げた

 

 

 

「……異世界?」

 馬鹿みたいに繰り返している自分がいた。

 そんな言葉、今時ファンタジーの小説にも出てこないような言葉がいまいち信じられなかったから。

「正確には、異なる空間に存在する、こことは別次元の世界です。私はその次元間に干渉する道を作って、そこを通ってこの世界にきました」

 だが、どうやらその反応も少女は予想していたのだろう。

 頷いてから、そんな返答が返ってきた。

 もっとも、その返答はただ単に郁也の混乱を煽っただけなのだが。

「……待て。とりあえず確認させてくれ」

 その混乱を落ち着け、その言葉を理解するために郁也は一度話を止める。

「はい」

「それは、本当の話なのか?」

 まずはそこからだった。

 郁也は至って普通の高校生だ。

 故にそんなファンタジー過ぎる内容の話をされても、はいそうですか、と信じるほど変な電波には侵されてはいないし、今でも半分も信じてはいない。

「今、郁也さんが見た生き物も証拠にはなると思いますけど。それに、今でも証拠はきちんとあります」

 そう言って翳されるウィンの手。

 そしてウィンが何かを呟く。

 いや、呟いたというよりは、聞き取れなかっただけなのだが。

 ウィンの言う、異世界の言葉なのだろうか。

 そんな、どうでもいいことを考えていた、

 

 その刹那、ウィンの手に先ほどの剣が現れた。

 

 言葉が止まる。

 想像を逸したその光景に、一瞬息までも詰まった。

「私はこの能力を具現化と言っています。想像した事象や物質を、その場に創造することの出来る能力。……この能力だけは、私から見ても異質なんですけど」

 そしてまた腕を一振りすると、その剣は虚空に掻き消えた。

 その光景は、先ほどとなんら変わりは無い。

「……まだ、証拠は必要ですか?」

 こちらに振り返ると、ウィンは小さく笑みを浮かべてそう首を傾げた。

 だが、郁也はまだ言葉を出せない。

 今目の前で起きた現象は、もはや手品でも何でもない。

 本当に剣がいきなり現れ、消えた。

 それは郁也でも分かった紛れも無い事実だった。

 それはもう、疑いようの無い事実の証明。

 時間を置いて、それを完全に理解してしまったから郁也はそこでやっと口を開いた。

「……いや、信じるよ」

 もうこれでは疑えという方が無理な話だ。

 あんなものを見せられてはもう、信じるほかに無いではないか。

「話題、変えるか。ウィンが異世界から来たのは……まぁ、分かった。だけど――」

 自分にここまでの適応能力があったことに驚きつつ、郁也は言葉を続けようとした。

「その理由と目的、ですね」

 だがその続きはウィンに奪われ、郁也は頷く。

「――……あぁ」

 もしウィンのように異世界を渡る術があっても、それは遊び半分などでは決して使わないだろう。

 何か目的がある。それ以外の理由では。

「私は、探しに来ました」

「……探しに?」

 繰り返すと、頷きが返ってきた。

 そして間を置かずに、その続きがウィンの口から告げられる。

 

「私達と一緒に戦ってくれる、私達の助けになってくれる人をです」

 

 その、今の能力に引き続き信じ難いような内容の目的が。

 

 

 

  あとがき


 皆さんどうも、昴 遼です。

 第二話をお届けしましたが、どうも少し短めですね。はい。

 もう少し文章を足したかったのですが、今余計なことを書いてしまうと後々のネタバレになってしまうのでご勘弁を……。

 ちなみに、話数なんですがどうやら原作の二倍近くまで膨れ上がりそうです(ぇ

 まともな作品にしようとプロットを書いてみたら……あらやだ、不思議。

 どうにも、如何に原作が無茶苦茶な構成だったのかよく分かるあとがきですね(違

 まぁともかく。前回も書きましたが、まともな作品にする予定ですので、完結をどうかお楽しみに




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