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 無言に静寂に沈静。

 その空間は今、そう言った言葉で満ちていた。

 机を挟んで座った三人は無言。

 その間に生まれるのは静寂。

 誰かが口を開こうとして、だが抑え沈静。

 先程からそれの堂々巡りだった。さらに言えば、既に十分が経過。

 そろそろ落ち着ける頃だし、とりあえずこの空気をなんとかしないとなって思っているのは郁也だけじゃないはずなのだが。

 

――折角帰ってきても、これじゃあなぁ。

 

 明日の夜九時にはまたここを去ってしまう身だ。

 正直こういった無為な時間の過ごし方は避けたいと思っていたのだが、どうにも現実は厳しいようで。

 だったら仕方無い、と彼は思う。

 丘でも同じく、多分彼等から話し出そうという気は無いのかも知れない。

 

「色々と訊かないのか?」

 

 だからまぁ、とりあえずそう会話を切り出すことにした。

 その言葉に初め二人は驚いたようだが、郁也の意図を汲み取ったのか同じくやっと口を開く。

 

「訊いてもいいことなのか?」

「じゃなきゃこんなことは言わない。というか、二人にはその権利があるだろ」

 

 ただ無言で去ったならともかく、二人の記憶までも一時奪っていたのだ。

 その権利が生まれるのも当然。

 

「だったら遠慮無く」

 

 そう言って身を乗り出したのは華奈。

 どうやら本当に遠慮する気は無いらしく、その表情は何から訊こうかな、と言う感じに考え込みモード。

 まぁそんないつも通りの反応であることに郁也も少しホッとし、華奈の言葉を待った。

 

「じゃあ一つ目。郁也は一体何処へ行ってたの? 別に今更だから、何もはぐらかさなくていいからね」

「そんな気は無いって。でまぁ、返答は簡単に言えば異世界。細かく言えば、こことは異なる空間に存在する別世界、だったかな」

 

 ウィンに会って間もない頃そう説明されたのを思い出す。

 確かこんな感じであっていたはずだ。

 

「……やっぱり実際に聞くと現実味が薄れるな。異世界とか小説とかだけでの話だと思ってた」

「そんなもん、俺だって同じだ。正直今だって現実味はあまり抱いてない」

「でも、あるんでしょ?」

「あぁ」

「だったら異世界はあるってことじゃん。それ以上の解答は無いよ」

 

 その言葉は、もはやそのまま郁也の言葉は全面信用という意思が込められていた。

 まぁ、記憶も戻ったのだからそれも当然と言えばそうなのだが。

 

「だな、華奈に同感。でまぁ俺から二つ目。あの変な生物は、異世界から来た生物、ってことでいいのか?」

「そういうこと。総称はギルディスで、こっちの世界へ来る時通った道をあいつらも通ってきたらしい」

「じゃあ三つ目。ウィンちゃんって、一体何者?」

 

 まぁ当然来ると踏んでいた質問。

 だが、それに郁也は言葉を濁す。

 

「あっちの世界の住民、ってのが一番分かりやすいんだけど、正直俺もそれ以上は分からない。ただ常識外れな能力や実力を持ってるのは確かってことだけだ」

「分からないって……一緒にいるんじゃないのか?」

「それでも分からないんだ。一体あいつが何であんな能力を持っていてあそこまで強いのか。それすらも」

 

 そういえば、自分はウィンのことを何も知っていない。

 知っているのは年齢に性格、その実力など、本当に見ただけで分かるような情報だけなのだ。

 彼女の本質――中身を、自分は何一つ知らない。

 

「まぁ……分からないなら仕方ないな。でまぁこれが本題なんだけど――郁也、お前は一体何をしてるんだ?」

「あっちの世界を救おうとしてる――って言えば聞こえはいいかもしれないけど、実際はどうなんだろうな。あっちの世界を何とかしないと、またいつかみたいにギルディスがこの世界に来る。

 それも、さっきや今までみたいな規模を大きく超えて。だから俺はそれを何とかしたいのかもしれない」

「……それって、郁也じゃないと出来ないことなの? 郁也が危険を冒す意味って何?」

「さぁな。ウィンは俺に素質があるって言ってたし、俺としては自分で出来ることをやりたいと思っただけだから」

「郁也らしい……か」

 

 はぁ、と何故かため息を吐かれる。

 そしていきなり、びっ、と勢い良く指差された。

 

「でも、郁也が私達の記憶を消したのはそんな理由じゃ納得できないよ。私達は郁也の一番の親友でいるつもり。だから私達にもそのことは話してほしかった。相談してほしかったんだよ?

 なのに郁也は勝手に消えて、それどころか私達の記憶を消しちゃった。私が言いたいこと、分かるよね?」

 

 分かるに決まっている。

 彼女が言おうとしていることも、その心も。

 だが……それでも、自分の中ではそんな彼女等を巻き込みたくないと言う思いがあってしまうのだ。

 

「……郁也、また余計なこと考えてるだろ」

 

 しかしそれは一瞬にして見抜かれてしまった。

 

「お前の性格なんてお見通しなんだよ。どうせ俺達を巻き込みたくなかった、なんて自分勝手な結論で自己完結させようとしてるんだろ」

「……当たり」

「当たり、じゃないよ。郁也」

 

 いい? と華奈は人差し指を立てる。

 

「私達のこと、そんなに頼りにならないかな。信用できないかな。もしそうだって言うなら私達は諦めるよ? でも、違うよね」

「俺達は自惚れてなんか無いぞ? 俺達は郁也を頼りにしてるし信用してる。だから、その逆もまた然りじゃないのか?」

「あぁ……そうだな。その通りだ」

 

 認めよう。

 自分は彼等を頼りにしているし、信用している。

 例えそれ故にあの考えが生まれたとしても、それは変わらない事実だ。

 

「だったらさ、巻き込まない、なんて考えないでほしいな。むしろ巻き込んで、一緒に悩もう?」

「お前一人危険に晒したとして、それが俺達のためになるなんて思うなよな。むしろ残された方の気持ちも考えてくれ」

「心配、してくれたか?」

「「当たり前」」

「……ありがとう」

 

 本当、自分は彼等が親友でよかったと心から思う。

 こんな親友を持てたことを誇りに思おう。

 

「まぁ、回りくどいのも嫌いだし、さっさと結論言っちゃうね」

 

 そう華奈は一息を吸い、

 

「郁也、私達も連れて行ってくれない?」

「危険も承知、無謀も承知。それでも俺達はお前を手伝いたいんだ」

 

 告げた。

 

 聞いていて分かった。

 それは揺ぎ無い決意なのだろう。

 郁也としても、それを疑う気は無い。

 

 だが、それは決して簡単なことではない。

 郁也の時と同様、問題は多くあるのだ。

 

 まずこの世界で心配すべき問題は、一つ。

 

「学校や家族はどうする気だ?」

「学校は郁也と同じ、休めば済むし、家族も説得できるよ」

「こっちも同じだ。俺の家族も真面目に話せば聞いてくれる。ただまぁ、正直に話すわけにはいかないから、郁也を手伝うため、って話になるだろうけど」

「下手したら、ダブりは覚悟だけどね」

「まぁそんな心配するぐらいなら、初めからこんな話は出さないけどな」

「覚悟は充分……ってなわけか」

 

 そうだとすれば、こちらから言うことはない。

 彼等自身がそう決めてそう行動するのなら、郁也に止める理由は無いのだから。

 

 ただまぁ、自分がせっかくした決意の意味がなくなってしまうのは、何とも言い難いが。

 

『……ウィン、悪い。勝手に話を進めた。二人同行者が増えるけど、構わないか?』

『あ、えと、大丈夫ですけれど……。二人って薫さんに華奈さん、ですよね?』

『あぁ』

『お二人の方は大丈夫なんですか?』

『大丈夫だ。こいつらは、強いみたいだ』

『……家族とか、って話なんですけれど……。まぁ、いいです。郁也さんがそう言うなら、私から言うことはありませんよ?』

『それも含めてだ。まぁ、ありがとな』

『はい。じゃあ楽しんできてくださいね』

 

 こちらも交渉終了。

 多少の反対を受けることは覚悟していたのだが……短く済んでよかったと思う。

 いや、妙に簡潔すぎたのも気にはなるが、まぁウィンなりの気遣いなのかもしれない。

 

――……そういえば、ストレイドのこと訊くの忘れた。

 

 ストレイドが自分の意志で、しかも本来無いはずの能力を発動させたその理由。

 それをウィンに訊こうと思っていたのだが……つい忘れてしまったようだ。 

 

――まぁ、いいか?

 

 どうせいつでも訊けるのだから、今でなくても問題は無いだろう。

 

「とりあえず、行くのなら明日の夜九時に丘の上ってことになってるけど、大丈夫か?」

「充分。それだけあれば間に合うよ」

「同感だな。そんなに時間も必要無いだろうし」

「じゃ、まぁ」

 

 とりあえずその話は置いといて、と華奈はにっこりと微笑み。

 

「今日は何処行こっか?」

 

 いつも通りの笑みでそう告げたのだった。

 

 

 

「……あれ」

 

 家を出た時、不意に郁也がそんな声を漏らした。

 

「ん? いきなりどうした?」

「向こうの世界に忘れ物でもした?」

「いや、そうじゃないんだけど」

 

 そう答えると、郁也は二人を交互に指差し。

 

「そういやお前等、何で丘にいたんだ?」

「……今更?」

「考える暇、無かっただろ?」

 

 あの状況でそんな悠長なことを考えようものならば、間違い無く手遅れになってしまっているはずだ。

 だから、そんな考えが今浮かんだのは別におかしな話ではない。

 

「あそこでお昼ご飯食べて、その帰りに丘の方で何か見たって薫が言うからさ。見にいったら郁也がいたんだよ」

「あぁ……そういうわけか」

「まぁそういうこと――」

「二人っきりで昼飯か……」

「……あぁ、反応したのはそっちか」

 

 脱力する薫は気にせず、郁也は悪戯に笑みを浮かべる。

 まぁ簡単な話、大半の事情を察したのである。

 ただし。郁也が分かったのは、あくまで二人が付き合っているという事実だけ。

 実際には昼食を食べた後に恋人となったのだが、それを知るはずもない。

 

「告白は……華奈からか?」

「へ? あぁうん、そうだけど」

 

 あっさりバラすのは華奈らしいのだろうが、隣で薫が膝をついているのは何故だろう。

 

「……こいつ、どうしたんだ?」

「あー……あはは、ちょっと色々あってね」

 

 苦笑気味に答える華奈も、さすがに丘であった出来事を他人に言うのは抵抗を感じてるのかもしれない。

 いやまぁ、彼氏を襲いましたなんて事実、そうそう言えるものではないが。

 

「まー、触れないで?」

「別にいいけどさ。騒がしくするのは程々にな?」

 

 そう言うのはいいが、果たしてそれが郁也自身にも当てはまることに本人は気付いていないのだろう。

 

 

 

「そういえば、郁也って向こうで鍛えてるんでしょ? どれぐらい強いの?」

「……お前、また唐突な質問を」

 

 さらに、答えにくい質問である。

 そんな質問されて、果たして郁也の強さの値は誰が測るのだろう?

 

「いいじゃんか。気になるんだよー」

「俺もそれ、少し気になるな。どれぐらいなんだ?」

「んなこと言っても答えようが無い。自分がどれだけ強いとか、分かるはずないだろ?」

「ほらこう、何か例えでもいいからさ」

 

 一体何に例えろと、この少女は言うのだろう。

 今の郁也の力量はこの世界の定義から結構ずれているというのに。

 

「例えじゃなくていいなら、とりあえずギルディスとならある程度やりあえるな」

 

 もちろん、複数相手や規格外の相手は例外として、だ。

 しかしどうやらそれは上手く伝わったようで、

 

「うわぁ……郁也凄い」

「そういえば、丘で倒してるんだよな……お前」

 

 そう二人は感慨していた。

 ……まぁ、丘での一戦の五割程は郁也自身の力ではないのだが、その辺りは言わなくてもいいだろう。

 何より、こうして尊敬の眼差しで見られるのは悪い気分ではない。

 

「ま、別にそれを振りかざすつもりはないし。気にしなくていいだろ?」

「それもそうだけど、やっぱり知っておきたいって言うか」

「近いうちに俺達もそういう境遇になるわけだからさ、知っておいて損はないってことだ」

「……どうだろうな」

 

 果たして、損得はあるのだろうか。

 それを知ることで目標が生まれるのならばいいのだけど、郁也を目標にしてからウィンの強さを見たらきっと仰天すること間違い無しだと思う。

 

――……まぁ、いいか?

 

 別に口に出してわざわざ脱力させるようなことでもないし、目標があれば伸びは大きくなる。

 だから多分、言わぬが花なのかも。

 

 というかむしろ、そうするのが一種の優しさなのかもしれない。

 そんなわけで閑話休題。

 

 

 

「うわ……やっぱりまだ治ってないのか、これ」

 

 学校を見上げた郁也は、いまだ残るその傷跡を見て呟く。

 まぁ、あれからまだ一ヶ月程しか経っていないのだから、まだ直ってないのも頷けるかも知れないが。

 

「あぁ、そうか」

「どしたの? 郁也」

「いや、今ならこうなった理由、話してもいいかなって思って」

「え? これって手抜き工事のせいじゃないの?」

「……んなわけあるか」

 

 一体郁也がいない間に、どんな話になっているのだろうか。

 というかそもそも、学校を手抜き工事するっておかしいだろう。

 

「これ破壊したの、ウィンな」

「……うっそ」

「マジだ。何とも腹立つことに、ここをギルディスとの戦場に選んでくれたらしい」

「いや待てよ、一体何したらここまで破壊できるんだって。こう……物理的に無理っぽくないか?」

「あいつに物理的法則を適応させるな。ことごとくぶち破ってくれるから」

 

 事あれば何も無い場所を爆発させる奴なのだ。あの少女は。

 洒落にならないったらありゃしない。

 そんなウィンに物理的法則を適応させたら、きっと人は自転車で空を飛べる。

 

「洒落になんねぇな……あれぐらいしなきゃ勝てないって相手にはさすがに見えなかったんだけど」

「程度があるんだよ。あの時はこれぐらいしないと無理だったんだろ。というか、ウィンによればこれはギルディスがやったらしいけどな」

「……一体どんな攻撃をしたらこうなるの? ねぇ教えて?」

「俺が知るか。まぁ、確実に分かることといえば――当たればまず死亡レベル」

 

 鍛え方による……かもしれないが。

 まぁ郁也の場合なら、ストレイドの能力を使って腕一本骨折、と言ったところだろう。

 

――嫌にリアルな想像出来るようになったよな……俺。

 

 崩壊の程度を見るだけで、その威力をある程度想像できてしまう自分が今は怖い。

 

「てかさ、そろそろ動かないか? 郁也も見つかるとやばいだろ。お前は今海外にいるわけだし」

「あぁ、そういえばそうなってるんだっけか。忘れてた」

「忘れちゃ駄目だろ、自分で作った設定なのに」

「今はいいじゃんそんなことー。ほら、撤退てったーい」

 

 一体自分達は何故ここに来たんだろう。

 そんな疑問を抱きながら、郁也は華奈に押されその場を後にした。

 

 いやしかし。

 何処にいても見つかる可能性はあるのだが、そのことに彼等は気付いているのだろうか。

 

「あれ? もしかして澄川か?」

 

 商店街へ訪れた三秒後。

 それは現実になったのだが、まぁ閑話休題。

 言うと同時にダッシュし、逃げ切ったので良しとする。

 

 

 

 

 

 

「レッツお泊り会ー!」

「いえーい!」

 

 扉の向こうは、不思議な世界でした。

 

「……」

 

 無言で扉を閉める。

 そして額を袖で拭い。

 

「……うん、幻覚」

 

 言い聞かせ――再度開け放ち。

 

「「いえーいっ!」」

 

 現実を見た。

 とても悲しい現実を。

 

「オーケイ突っ込みどころは満載だがとりあえず言おう。帰れ」

「うわぁ邪険にされた。せっかく親友が泊まりに来たんだからもうちょっと歓迎したらどうなのさ」

「不法侵入者を歓迎する理由は無い」

「不法じゃないもん。お邪魔しますって言ったもん」

「世の泥棒が大助かりな理論だなそれは」

 

 それが許されるのならば、泥棒は大手を振って街を歩けるだろう。

 というか不法侵入罪という法律そのものが消える。

 

「だったら聞いてやる。何しに来た」

「泊まりに」

「何でだ」

「気分」

「俺の家は民宿かーっ」

 

 さすがにこれにはキレた。

 

 二人と別れたのは、つい三時間前。七時のことだ。

 そろそろ夕食だからということで解散した三人は、各々の家へと帰った。

 そして夕食を済ませ、明日のまでの時間を思い思いに過ごすはずだった。

 

 はず、だった。

 しかし、飲み物を買いにコンビニへ出かけていた郁也を迎えてくれたのは、先程の状況だ。

 

 ほんの僅かである静かな一時を返せ。

 

「いいだろ、別に。久々にあって、積もる話もあるんだから」

「今日でなきゃそれは駄目なのか? なぁ?」

「こっちの世界じゃなきゃ話せないことだって、あると思うんだけど?」

「例えば?」

「さぁ?」

「……お前等、強いな」

 

 特に精神面で。

 以前からそれは知っていたのだが、こういう形でそれに直面してしまうと色々と感じてしまうのは何故だろう。

 まぁ、逆にそれを知っているからこそ、諦めもさっさとついてしまうのだけど。

 

――……もしかして流されやすいのか? 俺って。

 

 もしくは、彼等が流すのが上手いのか。

 無駄にどうでもいい謎が生まれた気がする。

 

「もう好きにしてくれ……。ただ、行くことに関して家族にはもう話したのか? それをクリアしないと泊めるのは良くても、連れてはいけないぞ」

「問題無しに決まってるだろ? それぐらい分かってるっての」

「私もだよ。『郁也を手伝うために外国に行きたいの。駄目なら家出る』って言ったら快く了承してくれたよ」

 

 果たして、その台詞は笑顔で言うに値するものなのだろうか。

 

「……おい。いいのかお前は、こんなのが彼女で」

「脅迫は華奈の十八番だろ? 今更何を――ごめんなさい華奈さん謝るのでその拳を下ろしてください」

「じゃあ足で。一足先にお休み薫っ」

「そりゃないでしょ!?」

 

 ご愁傷様。

 

 というか、脅迫ではなく実力行使が彼女の十八番ではないのか?

 

 

 

「それで、本当に問題はないんだな?」

「心配性だねぇ、郁也って。大丈夫だよ。脅迫なんか本当はしてないし、ちゃんと話して納得してもらったよ。薫も、同じみたい」

「そうか。なら、いいんだ」

 

 確認せずとも信じてはいるのだが、それでももしかしてという事態があっては二人の家族に申し訳が立たない。

 まぁ二人だってそれを分かっているからこそ、当たり前のように答えてくれたのだろう。

 ……まぁ、華奈の冗談はさて置くが。

 

「で……泊まるのか?」

「うん。いいんでしょ?」

「あぁ……勝手にしてくれ。たださ、家族はいいのか? しばらく会えなくなるわけだし、話さなくても」

「大丈夫。その辺りはもう話をつけてあるからね。ほら、ずっと一緒にいると、決心が鈍っちゃうかも知れないし」

「薫も、同じ理由か?」

「多分ね。まぁ当の本人がこれだから、分からないけれど」

 

 誰のせいだ、誰の。と言ってやりたい衝動は抑える。

 触らぬ神に祟り無し、だ。

 

 まぁそれはさて置き、とりあえず二人は泊まるようだし、部屋の用意をしないといけない。

 華奈はウィンと同じ、郁也の母親の部屋でいいとして――。

 

「……薫と同室にするか?」

「うん? 薫と同じ目に合いたいようだね?」

「冗談だ。ちなみに、今ではその拳が不思議と怖くない」

「てぇい!」

 

 風を穿って問答無用の一撃が放たれた。

 しかしそれは、見事に空を切る。

 

「ホントだ。当たらないや」

「……それでもギリギリだったのが恐ろしいよ……お前」

 

 この少女、向こうの世界に行ったら主力は格闘で決定だろう。

 冗談抜きでこれは通用すると思う。

 

「これ、連続でやったら入るかな?」

「やめてくれ。かなりリアルで怖い」

 

 だって多分、入る。

 身体は反応できるのだけど、多分この少女の攻撃はそれを上回るはずだ。

 信じられないけれどそれが事実。

 

 まぁ、世の中には多少の不思議はあった方がいいのだ。きっと。

 

「んじゃぁとりあえず部屋を用意してくるから。華奈は風呂にでも入るか?」

「あ、お風呂用意できてるの?」

「そりゃぁ、入る気だったし」

「じゃあお先失礼しますー」

 

 そう言って笑顔を浮かべる華奈に、郁也は思う。

 

 状況的には二人の男子の中で一人だけの女子。

 ……なのに、何故華奈は警戒心とか羞恥心とか、そういったものを抱かないのだろうか。

 この年齢になれば、親友だとかそういうことも意識してしまうのが普通のはずなのに。

 他の女子とは感覚が数歩ほどずれているのだろうか?

 

「あ、覗きたいならお金取るからね?」

 

 どうやら、ずれていることは確定。

 しかも数歩どころではない。大きく横に数メートルはずれていた。

 

「安心しろ。むしろ頼まれても覗かない」

「む……それはそれで複雑な気が」

「じゃあ覗こうか? なんてベタな展開にしたいのか。お前は」

「あ、ばれてた?」

「さっさと行け」

「はいはい分かりましたよー」

 

 あまり長引かせてもいいことは無いとそろそろ判断したのだろう。

 だが、それでもやっぱり不満な点はあるらしく、口を尖らせて風呂場へと向かった。

 

「覗くなら諭吉さんだからねー」

 

 そして最後に一度そう釘をさし、華奈は風呂場へと消えた。

 

「ガキか……あいつは」

 

 その背中を見送り、郁也も呟いてから踵を返す。

 とりあえずは部屋の用意とか、無駄にやることが増えてしまったのだ。

 

 一人で静かに過ごすはずだった夜。

 何でこんなことになってるんだろうなぁ、とか、階段を上がりながら郁也は考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 今回は珍しく日常シーンなのに長め。

 いや、ただ無駄な話をいれて長くしてみただけなのですがw

 ぶっちゃけ、俺の話って無駄な話が多い。

 纏めれば五話とかで終わりそうな話も、軽く十話いったりしますしww

 まぁ、逆に減るということもありえるんですがね?(ぁ

 

 ま、そんなことはさて置き。

 

 ふと思ったのですけれど、これ完結するのかなぁ(ぇ

 今更ながらかなり不安になってきています。

 前回の二の舞にならないよう、頑張りますよー。




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