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 少女は正直驚いていた。

 自分の能力には、ある程度の自身は抱いていたつもりなのだ。

 それなのに、それを何の能力も無いごく平凡な人に破られてしまった。それも、二人同時に。

 あの二人の記憶を奪った時点で、自分はあの二人とはなんの関わりも持たないはずだった。

 しかしそれでも何か繋がっているものがあったのかもしれない。

 故に、本来分からないはずの能力の効果が途切れたことが分かったのだ。

 

「人って、不思議です」

 

 誰にともなく少女は呟く。

 それは少女一人きりの呟きだった。

 

「お前って、時々大人びたこと言うよな」

 

 故に、不意に後ろから聞こえたその声に少女はピクリと身体を振るわせてしまった。

 だが同時に、帰ってきた言葉と声の主を確認してホッとする。

 

「驚かさないでください、郁也さん」

「ん、悪いな。つかちゃんとノックしたぞ?」

「ノックしても反応が無かったら入ったら駄目です。私も女の子なんですよ?」

「以降気をつけます」

 

 まぁ、確かに入ると同時アレな場面に遭遇、なんて心身ともに危機に陥りそうな状況は避けたい郁也だった。

 ……でもまぁ、一応同じ家に暮らしてるわけなんだし、近いうちにあるのかもしれない。

 

――……うわー。

 

 そしてその時に起こるであろう惨劇を予想し、郁也は笑顔のまま冷や汗を垂らすのだった。

 

 

 

  Chapter16 繋がっていく世界

 

 

 

「で? お前は何を考えてたんだよ。ウィンがぼーっとするなんてそれ以外無いだろ?」

「……郁也さん。それ、まるで私が普段は考えることなんてしてないみたいに聞こえるんですけれど」

「気のせいだ。で、何考えてたんだ?」

 

 あからさまですねぇ……、などというウィンの冷たい視線はスルー。

 というか別にそんなこと思っちゃいないので反応するだけ意味は無いのである。むしろデメリットだけがある。

 

「郁也さんの世界のことですよ」

 

 でまぁ、ウィンもそれを悟ったものだからため息を一つ吐くだけに留め、その問いに答えた。

 別に隠しておくようなことでもないわけなのだし。

 

「何か、あったのか?」

「安心してください。別に悪いことじゃありませんから」

「ん……ならいいんだけど」

「あ、いえ訂正です。やっぱり悪いことかもです」

「……なぁ、叩いていい?」

「駄目ですー」

 

 にまー、と笑みを浮かべて振り上げられる郁也の手から逃げるウィン。

 どうにもやっぱり、彼女という存在が分からなくなりそうである。

 

「叩かないから。とりあえず説明」

「はい、了解です」

 

 ぴたりと止まって、でもやっぱり浮かべるのは笑顔。

 一体何が彼女にこの笑みをもたらしているのだろうか。

 それを考えて三秒。

 やっぱり分からず諦めた。

 

「華奈さんと薫さん、でしたっけ? 郁也さんのお友達の名前って」

「あぁ。で、二人がどうした?」

「えーっとですね、お二人の記憶がどうやら戻ったようなんですよー」

 

 極上の笑顔をウィンは浮かべたつもりなのだろう。

 そして、多分それは間違いではないはずだ。

 だがしかし。

 そんな笑顔をもってしても郁也は表情すら変えず硬直した。

 

「……あれ?」

 

 これはもしかしてマズイですか? とウィンは郁也の眼前に手。

 そのままひらひらと振ってみるが、まるで反応はないようだった。

 だが、言わない方がよかったのかもという後悔をすると同時、郁也は復活を遂げた。

 

「……駄目じゃん」

「……面目ありません」

 

 とりあえず郁也のその反応にウィンは頷く。

 二人の記憶を消し去ったのは他の誰でもなくウィンなわけで、郁也もウィンの能力を信じていたからこそ二人の記憶を消すように頼んだのだが、あっさりと伝えられるそんな真実。

 突っ込みたくなるのも仕方の無いものだ。

 

「つか、そもそも何で? 記憶は忘れさせたんじゃなく消したんだろ? 戻る理由が無いじゃないか」

「そうだった筈なんですけど……何ででしょうね?」

 

 正直、そこは本当にウィンだって分かっていない。

 でなければ先程のように一人で考えたりするはずも無いのだ。

 果たしてその返答で満足はしたのかしなかったのか。

 はぁ、と少し大袈裟にため息を吐き、郁也はその体勢のままで問い掛ける。

 

「で、それで何かデメリットは?」

「んー……無いと思いますよ? ただ、お二人が郁也さんの心配をするようになる、ぐらいでしょうか」

 

 まさか親友が異世界に行ってしまった、なんてことを誰かに言うはずもない。

 というか言っても信じてもらえないと、この年になれば分からないはずは無いだろう。

 

「……予想外だな」

「近いうちに一度、戻れるように調整してみますね」

「悪いな」

「いえ、もとはと言えばこちらの不手際ですから」

 

 そんなことをすれば来る前にした色々な決意が無為になってしまうのだろうが、こんな状況となれば仕方無い。

 せめて安心ぐらいはさせないとバチが当たるだろう。

 

「となれば……そうですね。今日明日と一回戻っちゃいますか? 鍛錬、二日ぐらい休んでも何も無いと思いますし」

「そうだな……うん。その言葉に甘えるよ」

 

 突如と決まった帰郷予定。

 心境としては嬉しさ懐かしさ戸惑いとそりゃもう色々な感情が混じっているのだが、まぁ良しとしよう。

 いや、ぶっちゃけよう。

 久々になる友人達との再会。

 嬉しくないはずは無いだろう?

 

「うーん、現金ですね?」

「やかましい」

 

 とりあえず、閑話休題。

 

 

 

「私は行かない方がいいですか? 時間さえ決めてもらえれば、こっちから道を開けますけれど」

「あー……そうだな、そうしてくれると助かる」

 

 折角の帰郷。

 どうせならば水入らずで楽しみたいものなのだ。

 

「はい。私だって水は差したくありませんし。でも、念のためストレイドは持っていきましょう? 私の能力で収納すれば、アクセサリーみたいに出来ます。それと、念話も世界を挟んでも出来るようにしておきますから」

「了解。助言に従っておく」

 

 今までだってギルディスは幾度も襲ってきた。

 時空を捻じ曲げることであちらの世界に渡れるのは何も自分だけではない。故にギルディスだって例外ではないということなのだろう。

 だとすれば万が一に備えるに越したことは無いはずだ。

 

「じゃあストレイドを貸してください。郁也さんの意思でサイズを変更できるようにしますので」

「あぁ、頼む」

 

 腰にあるストレイドを鞘ごと引き抜いてウィンに渡す。

 それをウィンは受け取り――一体どういうことを想像したのやら。

 携帯のストラップにでも使えそうなサイズまで小型化してしまったストレイドを笑顔で返却してくれた。

 

「元の大きさに戻すには、郁也さんが念じれば戻ります。で、小型化するときも同様ですので覚えておいてください。それと、小型のままでも能力は仕えますので」

「まぁ望むべくは一度も使わずに帰ってくることなんだけどな」

「そうですね。そうなることを祈りましょうよ」

「あぁ。そうだな」

 

 できれば友人達をこちらの世界に引きずり込みたくはない。

 その想いは今でも変わりはしないのである。

 

「道ですが、郁也さんの世界の時間で明日の夜九時ぐらいにあの丘の上に開きます。万が一郁也さんが来ない場合は私が確認に行くのでそのつもりでお願いしますね」

「つまりは遅れなきゃいいんだろ? 大抵のことが無い限り大丈夫だと思う」

「それもそうですね」

 

 郁也さんの場合は信用できませんけれど、なんて悪戯っぽく言って、ウィンは道の想像のために目を閉じた。

 何か言い返そうと思ったのだが、まぁ確かに否定もしがたいのでやめておくことにする。

 

「じゃあ郁也さん、行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくるよ」

 

 二人は笑顔でしばしの別れを迎えた。

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

「どしたの? 薫?」

「……いや、今丘の方に何か見えた気が……」

「? 何も見えないけど。何、UFOでも落ちてきた?」

「それは無いだろ」

 

 そんなもの墜落してきてほしくない。

 

「んー見に行く?」

「時間、まだいいのか?」

「まだお昼じゃんかー。折角恋人になったんだしギリギリまでいようよ」

「まぁそう言うなら俺は構わないけど」

「む、何よその乗り気じゃないような言い方」

 

 ぶーぶー言う華奈は片手で制する。

 いつもは色々とやられているが、それでもこういうときは男の子。華奈一人を抑えるのは酷ではない。

 ……いや、やっぱり結構本気で抑えないと無理かもしれない。力強すぎます先生。

 閑話休題。

 

「何というか、嫌な予感がするんだけど」

 

 見に行くのは構わない。

 というかむしろ、自分としては非常に気になるのでそうしたいぐらいだ。

 しかし、どこか嫌な予感を感じてしまうのは何でだろう。

 

「気のせいでしょー」

「……お前な、前にあそこに出てきたあの化け物のこと忘れてるだろ」

「忘れてないよ。でもさ、またあんなのが出てきたとしたらここから何も見えないっておかしいでしょ」

「まぁそうだけどさ」

「ほらほら、優柔不断な男は嫌われるよー? さっさと行こうよー」

「優柔不断以前に俺の選択権は何処?」

「無い」

「……」

 

 男の子なのに、薫はそこで脱力を決め込みそのまま華奈に押され、丘への道を逆戻りしていった。

 

 

 

「あー……酔いそうだ」

 

 あんな捻れ曲がった空間、何も感じずに通り抜けろという方が無理は話だった。

 何かこう船酔いとかそう言ったのとはまた別次元のものがあるのだ。

 だから来るときもそうだったのだが、本当に酔いそうだった。

 だがそれでも鍛えた体が役に立ったのか、立ち上がることに関しては支障はない。

 頭を二、三度振ればそんな気分の悪さもある程度はマシになる。

 

 だがまぁ、それでも指摘できる問題は一つだけあるわけなのだが。

 

「やっぱりついてくるんだよな……」

 

 以前ウィンが来た時と同様。

 たった今自分が出てきたばかりの場所から感じる自分以外の気配を郁也は感じた。

 道の入り口にはウィンがいたはずなのに、一体どうやって彼等は侵入してくるのかがほとほと不思議だった。

 とはいえ、考えている暇はあまりない。

 

「一体なら何とかなるか」

 

 今はこちらの時間は昼。

 人目は無いとは言え、あまり騒がしくしては見つかってしまう可能性は否定出来ない。

 故に郁也は、短期決戦を選択した。

 

 手首に着けたチェーン。その先に光る小型化されたストレイドが淡く輝く。

 所持者である郁也の意思を受け、ストレイドは元のサイズへとその姿を戻した。

 

 それを構え、じっと自分が出てきた道を見つめる。

 一瞬でも変化があれば、それを見抜いていつでもストレイドを振るえるように。

 だが――そんな郁也の思惑を、事実と結果は大きく打ち破る。

 道が一瞬だけ歪む。

 自分はいつも通る側なので見たことが無いから分からないが、おそらくそれが何者かが通ってくる合図。

 故に郁也は、そのタイミングに合わせてストレイドを振るった。

 技量で押す、などと言った小細工はしない。

 単純な力のぶつけ合い。それを郁也は狙っていた。

 しかし、その力の衝突は――起こらなかった。

 道から飛び出してきたそのギルディスはストレイド、そして郁也までをも飛び越え、その後ろへ降り立つと疾走したのだ。

 

「しま――」

 

 しまった、と言うには遅い。

 このままギルディスが街に出れば、騒ぎどころでは済まない。

 

「くそ……! 待てっ!」

 

 そんなことはさせないと郁也はその後を追う。

 こちらの速度がまだ勝っているのだけが幸い、と言うべきか。

 これならギリギリで間に合うだろう。

 そう郁也が安堵したと同時、その表情は驚愕に染まった。

 

 視線の向こう。駆けるギルディスのそのまた向こうに、二人がいた。

 

 少年と少女。見間違うはずも無い親友達、薫と華奈の二人が。

 

 二人は郁也には気づいていないようで、ただ正面から迫ってきているギルディスに顔を困惑や恐怖に歪める。

 それは既にギルディスのことまで思い出しているからか。

 それともやはり本能からか。

 いや、どちらでもいい。

 

「くそ……ッ!」

 

 守ろうと決意した二人が今、守るに値する危機に面していると言うのに、自分の位置はまだ遠い。

 届かない。決して届きはしないその距離が、とても遠かった。

 守る。そう決めたのに守れない。

 自分が決意をして、この世界を離れまでしたのにその結果がこれ。

 そんなこと、許せない。納得できるはずはない。

 ならばどうする。

 答えは簡単だ。

 

 何があろうが。どんな状況であろうが。

 絶対に守る。守ってみせる。その意思を持ち続ける。

 そして、実行する。

 

「おぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 咆哮を上げる。

 その開いた距離を詰めるために郁也は地を蹴った。

 

 しかし、それは本来決して詰めることなど出来ないほどの距離。

 だがその事実を――あり得ないまでの現実が塗り替えた。

 

Sonic move

 

 ストレイドが、郁也の意思とは全く関係無しに力を発動させたのだ。

 

 しかも。

 それは、本来ストレイドが持たない能力。

 

 当然郁也にはその理由などが分かるはずも無かったが、ただ一つ。その能力の効果だけは把握できた。

 何故ならば――郁也の体は、本当に一瞬でギルディスの正面へ回り込んでいたのだから。

 

 速度の高速化。

 それがたった今ストレイドが使った能力なのだろう。全く持って信じられないが。

 だが、戸惑うのは後だ。

 今はただストレイドが作り出してくれたチャンスを逃す手は無い。

 

「っだぁっ!」

 

 慣れるはずも無い高速移動。

 そのせいで多少体勢が崩れてはしまったが、それでも自分の目の前に瞬間移動の如く郁也が現れたせいで動きが止まってしまったギルディスよりはマシ。

 と言うよりも、そんな状況でギルディスが郁也の攻撃に対応できるはずも無かった。

 その攻撃が例え、不安定な体勢から放たれたものであってもだ。

 

 ストレイドがギルディスを切り裂く感覚が手に伝わる。

 だが、少し浅い。

 そのためストレイドをもう一度返し、さらに一閃を放った。

 それで終わり。

 今度こそその一撃は致命傷と足りうるものとなり、ギルディスの命を断った。

 

 

 

「……あー」

 

 ストレイドを小型に戻してから、とりあえずどうしたものかと郁也は空を仰いだ。

 自分の後ろには一体どんな表情をしているのか分からない二人がいるのだ。

 こちらから話し掛けるのは何とも気が引ける状況だった。

 しかし同時に、二人から声が掛けられるという可能性もまず皆無。

 助かったとはいえ、命の危機に晒された上にそれを助けたのが自分の親友だった、という事実。

 記憶が戻っていると言うことは、後者にそこまでの驚きは無いかも知れないが、それでも前者は完全に別。

 今の郁也だって死の危険に晒されれば多少なりともそういう感情を抱くぐらいなのだからそれも仕方ないことと言えよう。

 となれば当然、選択肢は一つなわけで。

 

「まぁとりあえず……久しぶり?」

 

 まずは、そんな挨拶から郁也は始めることにした。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 やっとこれで中盤に到着しました。

 ここから何とか話を進めていきますよ。

 

 とりあえず、ストレイドがある意味覚醒しましたねw

 詳しくは後ほど語りますが、しばらくはこれが郁也の力になってくれますので。

 ……ですが、ウィンのような力を得るのはまだ先なんですよね。不思議(ぇ

 

 まぁ、とりあえずは久々の再開です。

 前回の話からかなり早い展開だなー、とか思う方もいるかもしれませんが気にしないでください。というかもう慣れているものとして話を進めます(マテ

 

 まぁとにかく、次回はこちらの世界で話が進みますのでお楽しみにー。




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