轟! と、鉄球が再度郁也目掛け放たれた。

 しかし対する郁也は冷静。

 初めて見たときならばともかく、こう何度も見てこればいい加減慣れるというものである。

 

 故に郁也はその鉄球を、いとも簡単に叩き落とした(、、、、、、、、、、、、)

 

 だが、鉄球の攻撃はそれだけでは終わらない。

 郁也が前を見た次の瞬間。

 再び鉄球は放たれ、郁也へと向かってきていた。

 しかも、今度は四つ。

 まだ大して鍛錬も行っていない郁也には、それを全て落とすのは不可能だ。

 一瞬でそれを判断した郁也。

 ならば、とストレイドを正面に構え――自分に確実に当たるルートを飛んできた一個だけを瞬時に見極め、そしてまたそれを一撃で叩き落してみせた。

 そしてその見極めに間違いは無く、残る三つはそのまま郁也に当たらず、背後の壁を穿った。

 

 そのまましばらくストレイドを構えていたが、それが最後だということを確認すると、郁也は息を吐いた。

 

 構えを解くと、正面よりウィンが郁也のもとへと歩いてくる。

「もうそろそろ、次のステップに進みましょうか」

「でもまだギリギリだぞ? あの速度だと、対処するのがやっとだし」

「充分ですってば。というか、ほとんど完璧ですよ?」

 にこりと、ウィンは笑みを浮かべた。

 

 

 

 Chapter11 始まりは次の時へ

 

 

 

 迷宮の罠地獄というスパルタ鍛錬を終え、既に一週間。

 再度鍛錬場所はここ、外へと移っていた。

 そして最近やることといえば、先ほどのような、主に『見る』能力を上げるための鍛錬だった。

 

 ウィン曰く、郁也はどんなことを鍛えるよりも『見る』能力の成長が高いらしい。

 以前から郁也は、模擬戦でウィン等の動きを真似したことがあったが、それもその能力故の産物ということらしい。

 

 高速で動く物体を見て捕らえること。 

 如何なる物事をも瞬時に見極めること。

 様々な事象の違和感などを見つけること。

 

 そういった全てにおいて、郁也の持つ能力は飛び抜けているのだとか。

 郁也自身、何故自分がそんなことにおいて高い能力を持っているのかは分からないのだが、それでもその事実に変わりは無いのだ。

 まぁ、以前ギルディスに襲われた時のように、切羽詰った状況ではそんなことをする暇も無いわけではあるが。

 それはさて置き、その事実を見抜いたのがウィンであれば、当然そのメニューを考え出したのもウィンだった。

 先ほどの鍛錬もその賜物、とでも言うべきか。

 おかげで、この一週間で郁也のその能力は爆発的に伸びていた――といっても、郁也自身にその自覚は無いので、実際には微妙な状況なのだが。

 まぁともあれ、その結果、郁也には先ほどのような速度に頼った攻撃などはもう当たりはしないだろう、というのがここ最近のウィンの評価である。

 

「じゃあ、そろそろまともな実戦の鍛錬に入ります」

 そうウィンが告げた。

 

 実は本来、あの迷宮の後にはすぐ実戦の鍛錬が始まるはずだったのだ。

 しかしウィンが、『見る』能力があったほうが鍛錬の進みが早くなる、と言ったので、とりあえずはそっちを先に鍛えることにしたのだ。

 そしてその鍛錬も終わり、やっと元に戻ったと言うべきだろう。

 

「いいですか? 前も言いましたけれど、今度は模擬戦ではなく実戦の鍛錬です。ですから郁也さんにはギルディスの殲滅作戦に同行してもらうこともありますし、私も、一欠片の手加減もしません。

 ですから剣とかさすがに使いませんが……それでも、一瞬でも油断をすれば大怪我に繋がります」

「あぁ、分かってる。つか、元はと言えば今までの鍛錬や日々の鍛錬も全部、ここへ持ってくるためのものだったんだろ?」

 頷きと共に放たれたその指摘に、ウィンが一瞬驚いた表情を浮かべた。

 

「……あれ、気付いてたんですか?」

「なぁウィン。お前は俺を馬鹿と思ってないか?」

 

 それぐらい、実際に鍛錬をしてきた自分から見れば分かると言うに。

「ま、まぁともかくっ。明日からはそういうわけなので今日はしっかりと休んでくださいねっ」

「……そんな露骨に誤魔化されて騙されると思うのか?」

 突っ込んだが、ウィンは反応せずに回り右。

 そそくさと早歩きに地下へと逃げ込んでいった。

 

 はぁ、とため息を一つ。

 何かこう、やっぱりあの少女には幼い面もあるようだった。

 それを改めて再認識させられた郁也は、さらにもう一度ため息を吐くと――

 

「ストレイドッ!」

 

Hardness up

 

 ストレイドの能力をもって、自身の服の硬度を強化、衝撃を殺すために自分から横へと跳んだ。

 そしてその郁也が跳んだ逆の方向から――ギルディスの一撃が放たれていた。

 

 それは別に、気配を読んだわけではなかった。

 というか郁也、気配を読むのに関しては確かに上達しているが、背後からの不意打ちを読めるほどではない。

 ならば何故か。

 簡単だ。それは、郁也が今まで訓練してきた内容を見ればすぐにわかる。

 ただ郁也は、忍び寄ってきたギルディスの影を見ただけなのだから。

 

 その一撃は郁也の体に当たるが、硬度を上げた服と郁也自身が跳んで衝撃を流したことにより大したダメージにはならない。

 だがそれでも二メートルほどは吹き飛ばされてしまうが、すぐに受身を取り、体を起こした。

 この一瞬の動作も全て鍛練の賜物だ。

 実際に使うことになるのはもう少し先になると思っていたのだが……なるほど、と郁也は心の中で頷く。 

 どういうときでも、こういうことはありえるのだ。

 というか自分はそれを充分に実感しているはずなのだが……意識が足りなかったのだろうか?

 

 ……まぁ、今考えても仕方無い。

『ウィン、気付いてるよな?』

 思念通話をウィンへと飛ばす。

 そして、間をおかず帰ってくる少女の返答。

『もちろんですよ。……ですけれど、丁度いい機会じゃないですか?』

 心の中での会話だというのに、軽く微笑んでいる少女の表情が想像できた。

 もちろん、郁也とてその言葉の意味を理解するまでも無く、そのつもりだった。

『あぁ。いざという時まで手出しはしないでくれよ?』

 それは、鍛錬の成果を見せるため。

 いわば今の自分の限界に挑む、一種の挑戦だ。

 そして――その挑戦が始まる。

 

Hardness down

 

 郁也の意思に応え、ストレイドが郁也の服の硬度を下げ――つまりもとの硬度へと戻す。

 服の硬度を上げるということは、服を鎧とすることができて便利に見える。

 だが実際は違う。

 例えば本物の鎧にはちゃんと繋ぎ目という物が存在する。

 それはつまり、着ている状態でも体の動き――間接の動きを遮らないためだ。

 だが服の場合はどうか。それは簡単だ。

 服は本来柔らかい物であり、繋ぎ目など当然存在しない。

 なので、硬度を上げてしまえば防御力も上がるが、必然的に機能性も下がってしまうのだ。

 故に郁也は硬度を下げた。

 今の自分が、ベストに動けるようにと。

 

 しかし、何故なのだろう。

 ここまできて郁也は気付くのだが……以前ギルディスに不意打ちされた時のような緊張感が、無い。

 覚悟ができているからとか、今では完璧でないにしろ戦いに必要な能力を持っているからとか、そんな理由ではない。

 ただ……負ける気がしないのだ。

 

 ……まぁ、実際は郁也がそのギルディスと自分との力量の差を無意識のうちに見極めているからこそそう思うことができるのだが、当の郁也はそれを知らない。

 

 ギルディスの、まるで鞭の様な腕が郁也目掛け振るわれる。

 ――軌道は……

 だが、鞭という軌道を読みにくい物の攻撃であるにも関わらず、郁也はその軌道を一瞬で見切る。

 軌道が読みにくい分、鞭のように長い上にしなる武器は軌道の再調整が難しい。

 なので軌道さえ見切ってしまえば、避けるのは簡単なのだ。

 故にその一撃は、横へ跳んだだけで郁也には当たらなくなる。

 そしてこれは、鞭という武器のもう一つの欠点。

 一度振るえば、手元に戻すまでにほんの少しだが時間が掛かるのだ。

 それを知っているから――いや、ウィンに戦闘の基礎として学んだからこそ、郁也はそこを逃さない。

「食らえっ!」

 地面を蹴り、方向と共にストレイドを横へ薙ぎ払う。

 もちろんそんな単純な一撃、普通ならば当たらないだろう。

 だがこの一撃の目的は当てるためではない。

 鞭という武器のもっとも効果が薄い、言わば接近戦に持ち込むためだ。

 攻撃を避けるために一歩下がったギルディスの、その懐へとさらに一歩踏み込むことで郁也は潜り込んだ。

 

 こうすれば剣が確実に有利になる上、このギルディスの攻撃の威力も半減させることができる。

 全ての状況を見、一瞬で最高のポジションを見抜くことだって出来る郁也だからこその行動というべきだろう。

 

 その行動に、ギルディスは戸惑ったように鞭を振るう。

 だが既に威力が半減している鞭に脅威は無い。

 だからそんな攻撃がどうした、と言わんばかりに郁也はギルディスの腕を掴み、その動きを強引に止めた。

 そして、さすがにこの状態からではストレイドを振るうのは無理なため、そのまま別の攻撃へと派生。

「おぉぉっ!」

 足を全力で薙ぎ、ギルディスの足元を掬う。

 さらに、ギルディスの体が斜めに傾いだところでギルディスの腕を掴んでいた手を思い切り横へと払った。

 当然、そんな体勢でその行動に耐えられるはずは無いだろう。

 故にギルディスの体はいとも簡単に地面を転がった。

 

 そしてもう、ここまでこればこちらの勝ちはほぼ確定だ。

 もう見ただけでは何も不安要素は無い。

 だから郁也はストレイドを振り上げ――

  

「下がって! 郁也さんっ!」

 

 いきなり聞こえたウィンの言葉に、郁也は咄嗟に後ろへと跳んだ。

 

 同時、キィィ、とまるで金切り声の様な音が辺りに響き―― 

 

 轟ッ! と。

 

 そしてその刹那、まるで何かの光線の様なものが、郁也が先ほどまで立っていた位置を貫いた。

「な……」

 そしてその威力に、郁也は騒然とする。

 今の一閃は郁也に当たらなかったものの、その先にあった廃屋に、見事な風穴を開けていたのだから。

「別のギルディスです。戦いが起こってるのを察知して、気配遮断の結界を抜けてきたみたいです。……気配捜索の結界に引っかかったので、助かりましたけど」

「……つまり、引っかからなかったら俺が死んでたと?」

「そういう……ことですね」

 躊躇いがちなその頷きに、本当に血の気が失せた気がした。

 一つでも要素が狂っていれば、自分は死んでいた。

 そんな恐ろしい現実を突きつけられたのだから。

「……やっぱ、まだまだだな」

「ですね……」

 もはやため息すらも出そうに無かった。

 

 

 

「とりあえず、郁也さんは同じギルディスを相手してください。あっちの――もう片方のギルディスは私が相手しますから」

「あぁ、分かった」

 その言葉に郁也は素直に従う。

 もう言わずもがなだが、その二体を見比べてどちらが強いであろうかは郁也にも分かったからだ。

 だから自分は弱い方を相手にする。

 

 当然だ。

 まだまだ自分はウィンには及んでいないのだから。

 

 しかし、と。ギルディスと向きあって郁也は気付く。

 先ほどの攻撃があったからなのだろう。

 郁也と相対するギルディスは先程よりも郁也から距離を取り、何かあればすぐに対応できる距離を保っていた。

 つまり。先ほどと同じ結果にならないように警戒、そして学習したのだろう。

 

 となれば少し厄介なことになる。

 こう警戒されていれば、こちらの間合いに入るのも難しいだろう。

 しかし、相手の攻撃は明らかに間合いが広い。

 故に……現状ではギルディスが有利になってしまった。

 ――さっきので仕留めれなかったのが痛いな……

 そう思うも、既に遅し。

 今は今の対策を考えなければならないようだった。

 

 硬直状態。それを崩したのはギルディスの方からだった。

 地を蹴り、素早く間合いを詰めるとその腕を郁也へ向け振るう。

 さらに、それだけでは当たらないと先ほどで学んだのか、もう片方の腕も同時に振るう。

 二本による同時攻撃。それは、こちらの回避経路の大半を消し去るには充分だった。

 一本ならば所詮直線運動に過ぎない鞭の動きも、二本が合わされば大きな違いになるのは誰であろうと分かることだろう。

 よってその一撃を、郁也は避けきれない。

 

「おぉぉぉっ!」

 

 ……否。避けきれないのではない。

 避ける気は無かった(、、、、、、、、、)のだ。

 

 郁也は、どんな攻撃でも見ることさえできれば、それだけでその攻撃の軌跡や当たる位置、全てを把握することが可能だ。

 だが、そこに回避できる場所が無かったとしたらどうだろうか。

 

 答えは簡単。

 この行動こそが、その答えだ。

 

 避けれるのならば、回避は完全に捨てる。攻撃に徹する。それだけだ。

 故に郁也は突き進んだ。

 

 その郁也へと、二本の鞭が向かう。

 だが――郁也は回避は捨てても、防御を捨てたわけではなかった。

 

「ストレイド! 部分強化(、、、、)!」

 自らの意思を言葉に込め、ストレイドへと伝える。

 

Hardness up

 そしてストレイドはそれに応えた。

 

 ストレイドの扱いも、日々の鍛錬としてやっていた。

 故に、この程度の操作ならば既に可能。

 ストレイドが、郁也の意思の通りの位置――つまり、鞭の当たる個所だけを集中的に硬化した。

 そして僅かに遅れ、鞭の衝撃。

  

 当たり前だが、一部を強化したところでその衝撃はなくなるわけではない。

 鎧のように全体に衝撃を逃すようにはならないからだ。

 だが、それでも衝撃が伝わる面を一点だけではなく少しでも広めることで、体へのダメージはかなり減るというものだ。

 

 ほんの一瞬だけ郁也の体が揺らぐ。

 だが、一瞬だけ。

 ――この程度!

 ウィンの一撃に比べたら、軽い。

「っあぁぁっ!」

 そしてウィンに比べればこのギルディスの動きなど、

「遅いんだよっ!」

 ストレイドを全力で振るった。

 この距離ならば、この大振りの一撃でも当たる。

 そう分かった。

 

 そしてその予感は外れず、手に走る直撃の感触。

 が、それはこのギルディスの特徴なのだろうか。

 感覚で分かったがこの一撃では、まだ浅かった。

 予想以上に硬かったそのギルディスの体が、その郁也の一撃が致命傷となることを防いでいたのだ。

 よって、大振りをしたために一瞬だが郁也に隙が生まれた。

 その隙にギルディスは腕を引き戻し、郁也をその手で掴み――投げ飛ばした。

 

 あっさり軽々と浮き上がり、投げ飛ばされる郁也の体。

 そしてそこへ追撃を加えようとしたギルディスの鞭が振り上げられ――そして。

 

 突如巻き起こった爆発の炎に、一瞬で飲み込まれた。

 

 

 

 ――あっちのギルディスは、郁也さんでも何とかなりますよね

 創り出した剣をその手に構えながら、ウィンは思考を巡らせる。

 自分が向き合っているギルディスはともかく、郁也が今対峙しているギルディスには特殊な能力も無いであろう。

 となれば、今は分からないが、実際は断然郁也が有利だ。

 見るだけでその軌跡を見切ってしまうあの『見る』能力は、近接戦においては何に対しても引けを取ることは無いはずである。

 

 それに……郁也の鍛錬と実戦を兼ねたいい機会なのだ。

 

「邪魔をしないでください。郁也さんは、あなた達になんか殺させはしませんよ」

 

 ウィンにしては珍しく、強く言い放つ。

 そしてその言葉に含まれた何らかの気配を呼んだのだろうか。

 ギルディスが一歩、そこから退き――

 

 キィィ、と金切り声のような音が響いた。

 

 それが攻撃の合図。

 先ほども聞いた音だ、とウィンはそこから放たれるであろう一閃を警戒し、剣を正面に構えなおす。

 そして、やはり予想通りにその口から先ほどと同じ光線が放たれた。

 しかし、光線といっても実際には光速であるはずはない。

 故にその一閃など、ウィンにとって見切ることは容易。

 地面を強く蹴り横へと跳び、だが着地と同時に今度はその跳躍力と軽い体を利用し、高く上へと舞った。

 そして――

「ふっ!」

 剣を一閃――ではなく、その剣自体をギルディスへ目掛け投げつけた。

 そんな予想もできないウィンの行動に、当然ギルディスは驚きを隠せない。

 ……だが、それだけでは終わらない。

 辛うじてその剣をギルディスが避けるが、その刹那には剣は虚空へと掻き消えていて――

「【炎】!」

 次には、ウィンの正面に拳大の火球が六つ。同時に生まれた。

「【照準、三は上へ、一は下へ、二は側へ】!」

 そしてウィンの口から紡がれるのは、今までに無い長いその具現化の言葉。

 物体の想像ではなく、物体を操作するためのイメージを具現化するための言葉だった。

 その言葉は火球へと向けられ、やがてウィンが想像した効果をその火球へと宿す。

 

 火球が動く。

 いや、放たれる。弾丸の如き速度で。

 

 うち三つは空へ放たれ、上空よりギルディスを狙う。

 うち一つはウィンの下方へと一旦向かい、地上よりギルディスに襲い掛かる。

 うち二つは左右へと分かれ、側面よりギルディスを挟む。

 

 何処へ避けても、確実に当たる。

 それはもうギルディス自身も、考えるまでも無く本能的に分かったことだろう。

 だが――その先(、、、)は、例え誰であろうが読みきることはできなかっただろう。

 

 何故なら次の一撃は――

 

「【炸裂】!」

 

 ウィン自身しか分からない、ウィンが想像する攻撃なのだから。

 

 全ての火球が膨らむ。

 そして、どうにかしようとしていたギルディスに近づくと――容赦無く大爆発を起こした。

 

 

 

「……まぁ、そんなこったろうとは思ったよ?」

 あの大爆発が巻き起こった時には確かに驚きを隠せなかったが、それでもその原因を知るなり、あぁなるほど、と納得してしまった辺り、どれほどここでの生活に慣れてきたかが窺える。

 もう爆発とか、そんなことで驚いていてはキリが無いのだ。

「あの光線を連発されては厄介でしたので、早めに決着をつけたんですよ」

「……つまりは、あれで本気でないと」

 一体この少女の限界は何処なのだろう。

 本気で思う。

「まぁそんなことはいいんですよ」

 と、そう苦笑しつつも話を切り替える少女を見て思う。

 もう自分がこの少女を抜く頃には、きっと全てが終わってそうだ、と。

 ……言えば確実にこの少女は謙遜するだろうが、何だかそうされると自分が凄まじく弱い子に見えてしまうので言わなかったが。

「とりあえず郁也さん。初めての、ちゃんとした実戦はどうでしたか?」

「……横槍を入れられなければ勝ってたと思うぞ」

「でも、投げられてましたよね?」

「そりゃわざとだっての。ウィンが何かしようとしてるのが見えたし、一応な。……まさか爆発するとは思わなかったけど?」

 実際、隙が生まれたといっても一瞬だ。

 掴まれこそすれ、投げられるまでは行かない。

 普通だったならばそれまでにはその腕を切断するなり、何か方法はあったのだから。

 だが敢えてそれをしなかったのは、ウィンがしようとしていた何かに巻き込まれるのが嫌だったからなのである。

 事実ウィンとの距離は、殆ど離れていなかったのだから。

 

「まぁ、初めてでそう言えるのなら充分でしょうね」

「? 充分って……何が?」

 自分は、まだ何も誉められることをした覚えはないのだが……。

 そう思った郁也の心境を悟ったのだろう。

 ウィンは苦笑して、

「違いますよ。実は明日、ギルディスの殲滅作戦があるんです。本当は、さすがに明日は早すぎると思って郁也さんは連れて行かない予定でしたんですけれど、今日の調子なら大丈夫かな、って」

 そう告げて、郁也はあぁ納得、というよう頷く。

「でも、いいのか? もともと俺は行く予定じゃなかったんだろ?」

「それは大丈夫です。あまり遠くに行くわけでもありませんし、そこまでの規模もありませんから」

「つまりは、実際に試すのには丁度いい、と?」

「そういうことです」

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 さてさて、妙に早く郁也が覚醒です(違

 実際人ってこんなに早く進歩できるのかなぁ、と不安になるのですが、まぁ気にしない。ご都合設定です(ぁ

 それに郁也が進歩しているのは体術とかではなく、もとから持っていたものですしね。

 

 にしても、実際『見る』能力というものはなかなか凄い力になります。

 攻撃を見切れば避けれるし、さらに隙も見つけられれば反撃まで発展も可能。

 また相手の動きを見ていれば、その隙や弱点だって見つけることもできますしね。

 たかが見るだけ、と侮ってはいけませんよ?w

 

 さてさて、次回ですがやっとこさまともな戦闘に入ります。

 まぁ、ぶっちゃけ私の文才からどんなものになるかは察してくれると助かりますが(ぇ




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