ぐったりと、その少女は屍の如くベンチに横たわっていた。

 顔面蒼白、気分最悪という見て分かる要素以外にも、とりあえずその少女のコンディションは最低であることが分かる様子だった。

 

「まさか、ここまでとは思わなかった」

 

 そしてそれを語るは、つい先程までジェットコースターに乗り少女の隣の席に座っていた少年である。

 耳元でギャーギャー騒がれるのは普通の反応だろうと思い乗っている間は気にも止めなかったのだが、下りてみてびっくり。

 少女の足元はおぼつかないし何だかとってもアレな表情になってるしと、とりあえず凄かったのだ。

 でまぁそこで少年もやっと気付いたわけなのだが、女の子の叫び方は普通ギャーギャーではなく、キャーキャーだ。

 その枠を逸してギャーギャー言ってたのだから、一体全体どういう状態であったのは察したのである。

 

「まぁ、今度ホラー映画のDVDでも借りてきなさいよ。これ以上になるから」

「マジで?」

「……お願い隼人君。とっても嬉しそうな笑顔で言うのやめて……」

 

 泣きそうっていうか本当に泣いている春名なのだが、皆は結構楽しそうな笑顔。

 随分と素晴らしい友情がここにはあるようです。

 

 

 

 第八話 創立記念日、遊園地 〜後編〜 

 

 

 

「ママー、あれ何ー?」

「しっ、見ちゃいけません」

 

 純粋無垢である通行人(当然、子供)が指差す先には、身体を痙攣させながら地面に倒れる里奈の姿があった。

 春名の元気が無いのをいいことに先程まで色々言いまくってたのだが、数秒前に復活した春名に瞬封されたのである。

 

「哀れだな」

「哀れね」

「哀れだね」

「哀れですね」

「だーれか別の反応はないんかーいっ!」

「あ、起きた」

「その反応も何だかちがーうっ!」

 

 結局は倒れても元気な少女だった。

 

「というか何で私だけなの!? 美衣だって秘密漏らしてたし隼人君だって楽しんでたしぃ!」

「えー、特に理由は無いよ? ただ直接言いたい放題言ってくれたのは里奈だけだったからね」

「……えー、春名? それは、何。あれ?」

「うん。いわゆる仕返し、かな」

「いい笑顔で言い放つなぁっ!」

「……覚悟しな?」

「ドスの効いた声でも駄目っ!」

「もう、里奈は我侭だなぁ」

「どうしろと!?」

「大人しくする」

「解決になってな――ぎゃふん!」

 

 春名渾身のローキックが炸裂。

 合掌。

 

「まぁ春名も元気なようだし絶叫ツアー再開と……」

「し、しまったぁっ!」

 

 こっちも合掌。

 

 そして園内には少女の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「ジェットコースターなんて怖くないッ!」

 

 そう天を穿つように少女は叫んでいた。

 なんとまぁ素晴らしい意思表示に自己暗示である。

 きっと大声で叫んで自分にそう信じ込ませれば怖くないと思っているのだろう。というか思いたいのだろう。

 

「けど、世界って無情なんだよな」

「そうそう、自分の思い通りに行かないことって結構あるわよ? テストの点数とか」

「何だかその現実味帯びた返答も嫌だけど私の決意を一瞬で打ち砕くその二人のコンビネーションは何っ!?」

「「いえーい」」

「えぇー! 返答になってないよっていうか動き出したーっ!?」

 

 とか何とか叫んでいる少女――春名を脇目に、とりあえず皆は言う。

 

「絶叫系マシーンに自己暗示は通用しないと思うに一票」

「むしろ諦めが肝心に一票」

「後者に一票ー」

「僕は前者に一票と」

「俺、両方で」

 

「む、むしろ皆が酷いに一票!」

「無投票ー」

 

 反論の後、いえーいと再度両手を上げて最高の笑みを浮かべる皆。

 

 その皆を乗せ、彼等の乗る本日五度目のジェットコースターはその全速力を持って落下した。

 

「ぎゃーッ!」

 

 そしてやはり少女は叫ぶのだった。

 

 

 

「……こ、怖くなかった。……うん、平気だった。私頑張ったっ」

「うわ、足ガクガクじゃん」

「顔青いよー? 大丈夫?」

「冷や汗まみれね……」

 

「……皆にまとめて言うよ。誰のせいだッ!!」

 

「あ、結構元気でした」

 

 今にも泣きそうな表情を浮かべる春名なのだが、

 

「とりあえずこうなることぐらい予想できただろうに皆を誘った春名」

 

 あ、泣いた。

 るー、と涙流しつつ近くのベンチに酔っ払いよろしく座り込む。

 

「いいもんいいもん、私はどうせ弄られキャラなんだ」

 

 それでもってやさぐれた。

 

「弄られキャラは里奈の方だと思うんだけど」

「むしろ春名は天然だから……そうね、遊ばれキャラ?」

「「酷っ!?」」

 

 さすが親友、息はぴったりである。

 でも、結論は結局変わっていない気がするのは気のせいだろうか。

 

「でも、里奈は春名にいつも潰されてるし、ランクが一番低いのは里奈だろ」

「ランク!?」

「悪戯に関しては最高ランクだろうけど」

「……春名、隣いい?」

 

 里奈が問うと、春名はすすっと横へずれる。

 そして里奈が空いたところへ座り――さめざめと二人揃って泣き始めた。

 

「皆がー」「いーじーめーるー」

「鬱陶しいわね」

「春名。もう一回り行っとくか?」

「さー里奈。泣くのはもうやめだよーっ」

「あ、あんた春名っ! 我が身と親友とどっちを選――」

「あはは、我が身に決まってるよ?」

「即答ーっ!?」

 

 先程までの涙は何処へやら。

 子悪魔の笑みを浮かべる春名に対し、里奈はとうとう号泣した。

 

「えぇい鬱陶しい」

「ブルータスッ!?」

 

 でまぁ、里奈は謎の叫び声を挙げつつ、美衣に一発お見舞いされる羽目となるのだった。

 閑話休題。

 

「まぁ里奈は置いておいて。後はどうする? さっきので絶叫系はあらかた乗り尽くしたぞ?」

「そういえばそうですね。……あ、お昼食べませんか? よく考えたら、私達何も食べてませんよ」

「ん……そういやぁもう二時か。言われてみると腹が減ってるなぁ」

「言われてから初めて気づくことってあるよね。こういうのは」

「じゃあ、とりあえずお昼にする?」

「訊かなくてもどうせ皆同じでしょ? とりあえず食べる場所を探しましょう」

 

 片隅で今だ涙を流す里奈は完全無視の方向で、どうやらお昼の算段が決まったようだった。

 

 にしても復活早いな。春名。

 

 

 

 

 

 

「これ食べたら、もう一周する?」

「あぁ、それいいな。賛成」

「僕も別に構わないけど」

「私も大丈夫ですよ」

 

 と、着々とその後の予定を決めていく皆。

 その様子を見ながら、ぴたりと箸の動きを止めた春名は言う。

 

「……えっと、皆? 何? 私に胃の中身を逆流させろって言いたいの?」

 

 さっきまでであんな感じになっていたのだから、昼食後に乗ればどうなるか。

 それを予想した上での言葉なのだろう。

 

「あー、それもそうだな」

「さすがにそれはやめておいた方がいいわね」

 

 先程までがあんなのでも、実際にはかなり友人想いである彼等。

 さすがにそれは超えちゃいけない線を越えていることを悟ったようである。

 

「春名情けないなー。これぐらいでへこたれてたらいい女になれないぞー?」

 

 でまぁ、それを分かっていながら悪戯な笑みを浮かべる少女は、どうやら本物の馬鹿のようである。

 きっとこう言えば春名が面白い切り返しでもしてくれるのだと予想しているのだろうが、

 

「せーのっ」

 

 里奈がそう思っていることを、また同様に予想した春名は拳を振り上げ、

 

「とーんでけーっ」

 

 したのは面白い切り返しではなく、とっても痛い制裁。

 鳩尾――腹は意図的に避けたのだろう――を狙って放たれたその研ぎ澄まされた一撃は、里奈を沈ませるには充分な威力だった。

 まぁ、どこへ飛んでいくのかはご想像にお任せ。

 

 もちろん。里奈だから問題なく数分後に目を覚ますのはもはや周知の様子の上だ。

 実際にあの威力で急所を殴られては結構危険なので、よい子は真似しないように。

 

「さて、うるさいのも黙ったことだし。これからどうしようか考えましょうか」

「絶叫系は戻すから外すだろ? となると、大人しめのやつとかお土産見て回るとかしかないだろ」

「ゲームセンターって手もありますよ? さっき見かけましたし」

「あ、だったら私お土産見たいかも。お母さんに何か買っていきたいから」

「じゃあそれでいいかな。別に異論も無いでしょ?」

 

 お土産とは言っても、どこぞの大人気テーマパークではない。

 めぼしい物などあるはずは無いから、買うとすればお菓子辺りを考えているのだろう。

 

「可愛いぬいぐるみあるかなー」

「私欲丸出しな?」

 

 お土産? 私欲? 果たしてメインはどっちなのだろうか。

 彼女の優先順位が分からない。

 

「こんな所へ来てまで買わなくたっていいじゃない」

「えー、こういうところに意外と可愛いのがあるものなんだよ?」

「そうかも知れないけど……。商店街にだって人形屋の一つや二つ、あるでしょ?」

「そうだけどさー」

「そうなのか? 本当にそうなのか?」

 

 今のご時世、そんな店が商店街にあるって、どうなんだろう?

 デパートとかの中になら納得できるが、商店街にあるって何だ。

 確かに国内有数とはいえなかなかにそれはレアな気がするのだが。

 

「隼人、細かいことを気にしたら負けだ」

「……あぁ忘れてたよ。その暗黙のルールを」

 

 もう気にしないことにしよう。

 きっとあの商店街に無い店とか無いんだ。うん。

 

「とりあえず見に行こうよー。お菓子は――じゃない、ぬいぐるみは、お土産のついでだし」

「私欲隠し切れてないからな?」

「自分に正直なんだよ」

「結構損な性格だからな。それ」

 

 言い換えればそれは嘘をつけないということになるのだし――あぁ、そう考えると間違ってないのか。

 この少女が嘘をつけるとは思えない。

 

「……え、何。隼人君、その何だか憐れんだような表情は何?」

「お前の行く末を心配してやってるんだ」

「それは遠回しに馬鹿にしてる?」

「いや、結構ストレートだな」

 

「てぇいっ!」

「甘い」

 

「うわ、受け止めたよこいつ」

「春名の攻撃って見えないのに、凄いね」

「皆も私のこと何だと思ってるんだよーっ!」

 

 そりゃ当然親友である。

 ただ、対応の仕方が特殊なだけで。

 

「むしろそっちの方がいやー!?」

 

 うがーっ、と春名が唸ったところでとりあえず閑話休題。

 

 

 

「……あのー、私のこと皆忘れてない?」

 

 それは気のせい。

 

 

 

 

 

 

「そろそろお開きかなぁ」

 

 パンフレットへ視線を落としながら里奈が告げる。

 

「あぁ、もうそんな時間か」

「楽しい時間ってすぐに過ぎますよね」

 

 そう彼等が言う時刻は、既に四時半を過ぎたところ。

 ここの閉園が五時だったはずだから、まぁ妥当な時間なのだろう。

 

「じゃあ帰る? もう乗ってないやつも殆ど無いでしょ」

「そうね。明日に遊び疲れて学校休み、なんて言う馬鹿らしいことにはなりたくないしね」

「まぁ、主にそうなりそうな確立があるのは一人だけど」

 

 それは誰か? 当然、決まっている。

 皆の視線がゆっくりと動き――春名を見る。

 

「だ、誰のせいなんだよーっ!?」

「お前今日はよく叫ぶのな」

「だから誰のせいなのッ!」

「「「さぁ?」」」

「息ぴったり!? 今日の私の不遇っぷりには納得がいかないよっ!?」

 

 自分で言うか? という皆の視線を受けながら、普段の里奈と立場が変わってしまっている春名は叫ぶ。

 というか吼える。主に世の理不尽さに。

 

「そこまで広い範囲に吼えてないよ私は!!」

「はいはい、分かったからいい加減に落ち着きなさい」

「誰か私の味方はいないのかーッ!!」

 

 いないからこその現状であると、気付かないのだろうか。

 閑話休題。

 

 

 

「帰る前に、一つ思いついたんですけれど、いいですか?」

 

 春名の暴走――もとい騒動も一段落したところで、美羽がふとそんなことを口にした。

 

「まだ乗りたいものでもあるの?」

「はい。そういえば乗ってないな、って思ったのが一つ」

「い、嫌だよ!? 絶叫系はもう乗らないよッ!?」

「……まだ何も言ってないでしょう。少しは落ち着きなさい」

「そうですよ。それに、絶叫系じゃありませんから」

「あー、何となく予想ついた」

 

 と言っても、絶叫系でなくて乗っていないもの。

 尚且つ、美羽が乗りたいと思うようなものと言えば数は限られてくる。

 さらにこんな時間だ。乗るものと言えば、もはや定番とも言える、例のものしかない。

 

「多分、隼人さんの予想で当たりです」

 

 そう言って指差したもの。

 あぁやっぱりか、と隼人の頷きを横に、それを確認した春名が安堵の息を漏らしていた。

 

「あれなら……私幾らでも乗るよ」

 

 地獄から開放される。そんな想いが篭っているようにしか聞こえない一言だった。

 

「定番だね、観覧車って」

「いいじゃないですか。ああいう定番に乗ってこその楽しみだってありますよ」

「私は賛成だよ。乗っても損は無いしね」

「私もね。まぁ、春名に対するご褒美って感じになると思うけれど」

 

 わいわいとはしゃぐ女性陣。

 どうやら、乗ることは決定したような感じで。

 

「だったらお前達で乗ってこいよ。俺達は何か食って時間潰してるから」

「そうだね。人数も四人だし、丁度いいんじゃないかな」

「つか、むしろ男子だけで乗るのは少し萎えるし」

 

 で、男子陣もある程度の意見が纏まった様子。

 ――の、はずだったのだが。

 

「駄目だよー。散々私を乗らせておいたんだから、皆乗らないと不公平だよ」

「と、春名は言ってるけれど?」

「……いやまぁ、それで春名の気が治まるんなら俺はいいけれど」

 

 あれだけやられたというのに、これだけの報復で済むのなら安いものである。

 

「僕もいいけどさ、せめて男女二人ずつで別れようよ。僕達だけで乗るのは抵抗ありすぎ」

「それもそうね。というか、見たくない構図だから賛成するわ、私は」

「美衣……何気に酷いこと言わないの」

「というかさ、それならむしろ一対一で乗らない? そっちの方が色々と面白そうだよー? 特に会話のネタとして」

「後半の理由が気に食わないから却下」

「うわっ、酷い理由で蹴られた」

 

 いや、その反応が当たり前だろう。

 というか里奈と一緒に乗るというのが怖すぎる。

 何だか、あらぬ秘密とかを暴かれそうな気がするのは気のせいではないはずだ。

 絶対暴きに掛かる。この少女は。

 

「でも面白そうだよ? 私はそれでいいかもー」

「春名に賛成ね。たまにはそう言うのもいいんじゃないかしら?」

「何だ、あれかお前等。里奈と一緒に乗った奴の被害とか関係無しか」

「本人を前にして言うのはどうかと思うよ隼人君!?」

「まぁそれもそうだけど――」

「美衣まで!?」

「結局、私達に被害は来ないわけだし?」

「……うわぁ」

 

 つまり、男子の誰かに犠牲になれ、と言うことか。

 とっても酷い結論だった。

 

「えっと? 今日は春名にターゲットが移ったと安心も束の間、これですか?」

「何言ってるの。元に戻っただけでしょ?」

「こんな元は嫌だーッ!!」

「はいはい、文句言う暇あったらさっさと組んだ方が利口よ? 里奈と組んだが最後、あらぬ事ある事喋らされるわよ」

 

 自分は安全だからと何気に煽ってないか、この少女?

 というかもはや既に楽しんでいる気がする。

 

「……うふふ、こうなったらヤケだよ。本当にやってやるよ覚悟しろーっ!」

 

 あぁほら。里奈がやる気になってしまった。

 

「何かこれ、新手の罰ゲームみたいな」

「罰を受ける人が何かしたってわけでもないんだけどねー」

「いやまぁ、運が悪かったと言うことで――春名、乗るか」

「そうだねー。で、オーケーだよ」

 

 とりあえず相方確保。

 無駄に早いのはご愛嬌である。

 

 で、こっちは安心できたところで組み合わせはどうなったかな、と見てみれば、

 

「よぅし、気まぐれで和谷屋を捕まえてみよう」

「なんですと!?」

 

 和谷屋が餌食となった様子。

 と言うか、既に双子組は組んでいたので結局は消去法か。

 

「和谷屋」

「は、隼人! 助けてくれ!」

「……お前にどんな秘密があっても、友達だからな」

「嫌だーッ!」

 

 何だか今日は不遇な子が多い。

 そんなことを思いながら、隼人は寛大な犠牲者を見送った。

 

 

 

「今日は楽しかったねー」

 

 で、いざゴンドラに乗り込んだ隼人と春名。

 早速会話が始まっている様子。

 

「結局楽しんでるんだな」

「まぁね。怖かったけど、楽しかったし」

「矛盾してないか? それ」

「んーん。怖いの反対は楽しいってわけじゃないでしょ? ほら、お化け屋敷って怖いけど、楽しいじゃん」

「あぁ、それは言える」

 

 確かに的確な例えだ。

 

「じゃあ、やっぱり今度ホラー映画でも――」

「それとこれは話は別っ」

 

 絶叫系はよくてホラーは駄目なのだろうか。

 いや、どっちにしろ本気で嫌がるのは事実だから、同じか。

 

「隼人君ってさ、意地悪だよね」

「その台詞、何度目だろうな」

「だってそう思うんだもん。というか絶対そうだよ」

「まぁ否定はしないけれどさ、度は過ぎてないつもりだけど」

「……今日の、あれで?」

「いやぁ、本気で嫌がることはしないし」

「私嫌がってたよね?」

「でも、楽しかったんだろ?」

 

 諦めがつかないぐらい本当に嫌なこととかは、意味が無い限りはしないようにしているのだ。

 まぁその度合いを見抜けるのは、そういう目を持っている隼人だからなのだろうが。

 

「……隼人君、屁理屈屋だぁ」

「理屈屋よりは話が楽しいだろ?」

「うわぁ……」

 

 本当に屁理屈だよ、とか呟く春名はさて置き。

 ふと視線を外に投げかける。

 まだ頂上にはほど遠いが、景色はなかなかのもの。

 

「この街って、こんな風になってたんだな」

「そうだね。私もこうやって見たことは無かったかなぁ。ほら、この街って今まで観覧車とかタワーみたいなのは無かったんだし」

「まぁ、ジェットコースターからも少し見えたけど」

「私にそんな余裕無かったの知って言ってるよね?」

「もちろん」

「……叩いていいかな」

「出来るなら」

「うぐぅ……」

 

 唸って、一応手をあげるが――すぐに下げる。

 隼人に大きな隙が無い今だと無理だと判断したらしい。

 というか、この小さなゴンドラで暴れるのは自殺行為と判断したことの方が大きいのか。

 

「隼人君、帰ったらご飯抜きだよっ」

「……何故にそうなる?」

 

 色々と突っ込みどころが多い台詞だった。

 とりあえず一つ言うと、びっ! とこっちを指差しながら言うべき台詞とは若干異なる気がする。

 

「隼人君の分まで私が食べるもんっ」

「太るぞ?」

「……」

「いや睨まれても……」

「……やっぱり隼人君意地悪だっ」

「結局そこに辿り着いちゃうわけな、お前」

「隼人君のせいでしょっ」

「えー」

「何でそこで不満そうになるの!? どう考えたって隼人君のせいなのにっ!」

「被害妄想はいけないと思います」

「やっぱりやっぱり意地悪だぁーっ!!」

 

 うわーん! と春名が叫んだところで、とりあえず閑話休題。

 

 

 

「空って、青いよな?」

「いやもう夕方だけど……。お前、どうした?」

 

 ゴンドラから降りてきた和谷屋は、何処か遠くを見ていた。

 何だろう、過酷な人生を生きてきました的な表情で。

 

「世界って、美しいよな?」

「……里奈。和谷屋が壊れてるんだけど?」

「んー、現実逃避は良くないよ和谷屋ー?」

 

 にっこりとその肩を叩く。

 しかし和谷屋は聞こえていないのか、やっぱり遠くを見ているだけだった。

 

 寛大なその犠牲者に、合唱。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 どうしてこう、どうでもいい日常シーンを書くとこんなに長くなるんだろうなぁって最近疑問に(ぇ

 まぁ、コメディ路線だしいいんでしょうかね?w

 

 ま、いいです。

 それはともあれ、とりあえず次回で一人キャラが追加です。

 言わずもがな、小さな家出娘ですが、やっぱりコメディということでその過去もそういう風にしてみようと思っています。

 重い話とか、自分が書くと見ていて痛い話になるのは重々承知ですからねーっ。

 

 そんなわけで、まだまだ続きますのでお付き合いをー。




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