うっすらと目を開けると、朝日が目に飛び込んできた。しかも直射日光。

 ろくに覚醒もしていない意識の中、朝日から逃れるようにベッドを転がる。

 反転、一転――したところで、一瞬の浮遊感。

「だっ!」

 ドスンッ! と床に音が響き、やっとそこで意識が覚醒した。

「――っ!」

 ちなみに言えば、後頭部を強打したためだ。

 どうやら転がりすぎてベッドから落ちたらしい。

 痛みに悶え苦しみながら薄めを開けると、間違いではない。朝日は確かに部屋に差し込んでいた。

「あー……?」

 おかしい。

 何がおかしいかといえば全てがおかしい。

 そもそも、カーテンを閉めたので直射日光が入るはずはない。

 だけど今そのカーテンは全開で、本来の機能を果たしていなかった。

 そしてもう一つ。

 後ろから、寒気を感じるのはどうしてだろう。

 背後霊――というのは馬鹿らしい考えなので切り捨てる。

 それでも、一つ言えることがあった。

 それはと言えば……凄く嫌な予感がしたのだ。

「カイトー? 人との待ち合わせに一時間遅れた挙句見に来れば、まだ夢の中ってどういうこと? 説明してほしいなぁ?」

 予感は、確信へと形を変えた。

 少年――カイトの顔が引きつる。

 そして同時に、穏やかなはずの朝は消え去った。

「……レン様、オハヨウゴザイマス」

 首だけを動かし、後ろへと向ける。

「台詞棒読みだし。というかとりあえず死ね♪」

 いい笑顔。

 凄くいい笑顔の鬼――もとい、幼馴染の少女レンがいた。

 というか発言がヤバかった!

「いや、オイ! 待てっ! 拳はやめろ! それ痛いからってぇ――!?」

 朝である。

 とてもとても穏やかな、一日の始まりである。

 

 

 

第一話 何かが始まる朝

 

 

 

「くそ……あいつ、思いっきり殴りやがって……」

 台所に立ち、片手で包丁を振るいながらもう片手で頬を抑える。

 うわ、少し腫れてるかも。

 鏡が無いので分からないけど、とりあえず触った感じ、腫れていた。

 後で氷で冷やしておこうと考えながら、とりあえず今は料理へと集中する。

 包丁の扱いは危険なのだ。

 下手に意識して指を無くしたくはない。

「カイト、まだー?」

 と、そうしたと同時に聞こえてくる声。

 図々しくも朝食を食そうとしているレンである。

「少しは待てって。てか、十分も待たずに出来るわけ無いだろうが」

 ……とても短気なレンである。

 口に出しはしないのは、本能か意識してかは分からないが。

「本当に、今日は一体どれだけ待たせる気なの?」

「あのな……今朝のことは忘れてた俺が悪いけど、今待ってるのはお前の勝手だろうが」

「帰って作るのは面倒だしさ」

「……最近、お前まともに料理してるのか?」

「……へ?してるよ?」

 嘘だ。

 あの間は絶対に嘘だ。

 というか、ここ最近飯時には確実と言っていいほどにここに入り浸っているのにいつやるのか。

「……」

「……」

「……」

「……だって、私料理苦手だし」

 間に絶えられなくなったのか、一分ほど経って呟く。

 どうやら、本音はそっちらしい。

 いやまぁ、幼馴染なのでそれぐらいは知っているが……練習しないことには何も進歩するはずはないだろうに。

「……てか、手先の器用さの問題?」

「堂々と人の欠点を指摘するかな……この幼馴染は……」

「いやぁ、事実だし」

 言ったら拳が飛んできた。今度は避けた。

 幼馴染として付き合って早十七年以上。慣れるというものだ。

 ……あれ? そう言えばいつの間に背後まで来た?

 縮地でも使ったのだろうか……。謎である。

 まぁいいや、と包丁の動きを再開させる。

「そういえばさ、結局どうする? 時間は遅れたけれど、俺はともかくお前は行くのか?」

 手は止めずにそう訊くと、もちろん。と嬉しそうに声が返ってきた。

「それに、遅れた分付き合ってもらうよ? 私の買い物に。丁度買いたいもの一杯あるんだ」

「いいけれど、奢らないぞ。何も」

「別に奢ってもらう気はないから大丈夫」

「荷物持ちも却下だ」

「……カイトなのに鋭い」

「お前より鈍いと思うことは無いけどな」

「うるさいよ、そこっ!」

 というか、身体的な鋭さは持っているのに、感覚的な鋭さを持っていないのは如何なものか。

 いや、だからこそ短気なのか。

 ちょっと納得してみた。

「というかカイト、まだっ? おーなーかーすーいーたー!」

「ガキかお前は。駄々こねるんじゃない」

 十七歳の少女として、両手を振り回す姿は滑稽以外にはどんなようにも映らない。

 しかしうるさいのはどうとも言い難いので、とりあえず手の動きを早めた。

 とは言っても残り僅か三分足らずで終わるであろう料理を早めたところで何かが変わるとも思えないが。

 結局、本来の完成時間より二十秒ほど早めに完成。そしてその二十秒で料理が食卓へと並んでいく。

「先食ってろ」

 そう言い残して踵を返そうとしたら、

「どうしたの?」

 当然の如く呼び止められる。

「……俺はお前が急かすせいで、まだ寝巻きなんだけどな」

 さらにその上にエプロンと、それが今の格好だ。

 ……正直かなり格好悪い。

 というわけで早々に着替えたいわけなのだが。

「あー……ごめん?」

「……疑問系で謝られても困る。いいから、先食ってろ」

 今度こそ踵を返して二階の自室へと向かう。

 しかし……と階段を上がりながらカイトは思う。

 今日で、両親がいなくなって丁度十年目だ。

 つまりは両親の命日ということになる。

 そして、今朝レンがお怒りになった件もそれだ。

 墓参りに行く予定だったのだが、当の息子が寝坊し、ご立腹。

 まぁ完全にカイトの自業自得なのだが、それでも殴らなくても、というのはカイト談。

 自室で服を着替え、脱いだ着替えは帰った後に片付ければいいとベッドに放り投げてまた扉を開ける。

 だがそれでも着いてきてくれるのは、レンらしいといえばレンらしい。

 というか、レンはカイトの両親が死んだその時のカイトを知っているからこそ着いていきたいのだろう。

 墓の下に眠るカイトの両親に、「大丈夫、カイトは元気に育ってます」みたいなことを伝えるために。

 そしてもう一つ。

 そのレンの両親は今はどこかを旅というか放浪というか、何とも言い難いことをしているため、その親友でも あったカイトの両親にそれを愚痴りたいのだろう。

 ……勘だが、多分そっちの話の方が長い。

 しかしその点についてはカイトも少し文句を言いたいこともある。

 カイトもレンの両親とは知り合いだし、仲もいい。

 だからこそ言えるのだが、早く帰ってきて、レンに料理を作るなり出来れば料理を教えるなりしてほしかった。

 つまりは、今現在レンのストッパーは無いのである。

 あるとすればそれは、レンの中に一欠片あるか無いかの自制心だ。

 もっとも、その自制心の効果発動確立はゼロに等しいのだが。

 どうしたものか、と兄か何かにでもなったような心境で階段を下りて食堂へと入ると、

「お帰り」

 にこりと笑みを浮かべ、食事には手を付けずに待っているレンがいた。

 ……前言撤回。

 優しいと思えるような面では、その自制心は人並み以上に働くらしい。

 

 

 

 食器を流し台に置き、レンの言う通り洗うのは後回しということになった。

 そして今、二人は村の中を真っ直ぐに歩いている。

 目的は一応二つあるのだが、優先すべきはもちろん、カイトの両親の眠る墓への墓参り。

 ちなみにもう一つは言わずもがなだが買い物である。

「もう十年か……もう結構経つんだね」

 ふと隣のレンがそう言葉を発する。

「だな。……しかし、時が経つと人って変わるものなんだな」

「あはは。カイト、あの時は本当に真っ暗だったもんね」

「言うな。てか、普通ああなるだろ?」

 子供にとって、両親を失うというのは何よりも大きく耐え難いショックなのだから。

 まぁ、うん。と曖昧な返事を返して、レンは空を仰ぐ。

「でも変わってくれてよかった。あのままだったら私、どうしていいか分からなかったし」

「きっかけはお前の言葉だったんだけどな」

 多分、あの言葉はいつになっても忘れることでは無いだろう。

「うむ、感謝しなさい」

 それを頭に浮かべようとしたときには隣でレンが無い胸を張っていた。

 たまに人が下手に出ればこれである。

「調子に乗るなっての」

 本当、この調子のよさは呆れるばかりだ。

 これはレンの両親以上ではないか。

 その頭を軽く小突いておくが、さして効果も無いだろう。

 そして杞憂には終わらず、明らかに懲りてない笑みを浮かべてレンはカイトの一歩前へと出た。

 む、とカイトも顔をしかめ、それを追い越す。

 それをまたレンが追い越す。

 カイトが。レンが。カイト。レン。

 気が付けば走り出していた二人は、それが村人達の注目を集めているとは気が付かない。

 実際にはこの二人の賑やかさはもはや周知なので、カイトとレンもそれを気にはしない、と言った方が正しいのだが。

 まぁともかく。

 やがて村の外れの小高い丘へと辿り着く。

 そこはこの村の墓地となっていて、今でも多くの命を失った人達が眠っている。

 そしてその一つ。

 やや古ぼけた暮石の前に二人は立った。

「うっわ……やっぱ汚れだらけだな……」

 一年周期で来ているとはいえ、やはりこれは酷いものだ。

「私、水汲んでくるよ」

「あぁ。俺は軽く拭いておく」

 本来ならば力仕事を引き受けたいのだが、哀しいかな。力はレンの方が勝っている。

「よう、父さん。母さん。元気にやってるか?」

 一年分の汚れを布巾で拭いながら、そう声を掛ける。

 声は届かない、と言う人もいるだろうが、やはり声は届いているのだ。

 生きていようとどうであろうと、実際この下にはカイトの両親がいて声は届いているのだから。

「一年ぶり、だな。……この台詞も、もう十回目か」

 短くは無い。だが、決して長くも無い時間。

 これはきっと、一生続いていくことなんだろうな。

 そう思いながらも手を動かしていくと、レンがそこへ戻ってくる。

「水汲んできたよ」

「おう。悪いな」

「気にしない気にしない。それに、今更、って感じ?」

「だな」

 苦笑を浮かべ、水を墓石の頭から掛けて残った汚れを一気に洗い流す。

 その間に手の空いたレンは一度墓前で手を合わせると口を開く。

「お久しぶりです。ルークさん、ミラさん。そちらは元気でやってますか? ……あ、前言撤回で。どうせ熱々カップルですよね。羨ましいぐらいに」

 ちょっと皮肉が込められた苦笑気味のその台詞。

 レンがカイトの両親を知っているからこその台詞だ。

「当たり前だ。あの二人の間が冷たくなることなんてあり得てたまるか」

 それ程にあの二人は、何年経っても新婚カップルなのである。

 何回か見ていて殺意が沸いたこともあった気がする。

 ……見ている身としては鬱陶しいのだ。

 まぁそんなことも、二人が生きていた時だけの話だが。

「と、息子のカイトも言ってますよ、良かったですねー。十年目でやっと息子認定です。あ、もちろんそのカイトも元気ですよ。毎日私と馬鹿やってます」

 にこりと浮かべられた笑顔に何か言い返そうかと思ったが、馬鹿やってるのは確かなのでやめた。

 いやそれ以前に、そう言えば去年ぐらいまではもう少し二人の関係について否定的な意見を言っていたものだが……人とは変わる存在らしい。

 それを今実感しながら、汚れが完全に落ちたのを確認してカイトもレンの隣に立った。

「ま……俺の気遣いで同じ墓の下にいるんだしな。最近になってやっと否定しても意味がないと悟ったんだ」

 もっとも何を言っても変わらないんだろうけど。カイトは続ける。

「とにかく、俺は元気だよ。心配せず熱々な空気になっておいてくれ」

「と、いうことですよ。お二人とも。……ってあ、そんなことより! ちょっと聞いてくださいよ私の両親ったら――」

 間違い無く長くなるので、その会話が出たと同時にカイトはその場を離れていた。

 毎年、何故かあの内容の会話ではレンの独り言は止まらない。

 一体幾つ文句があるのだというぐらいその文句を並べ立てるのだ。

 実際に聞いていれば、本当に疲れてしまうぐらいまで。

 というわけで、カイトはあの内容にはすぐに逃げ出すような反射神経が身についてしまったわけなのだが。

「……退屈だ」

 これもまた、実は毎年の台詞である。

 ここまでのパターンはまるで変わらない。

 つまりこのままいつものパターンならば、カイトはここで十分近く退屈を過ごさなければならないわけだ。

 たまに新しいパターンを作ってみようと思うのだが、実の所、レンの独り言が早めに終わってしまうとそれも中途半端に終わってしまうので実行したことは無い。

 何処かへ行くなんか持ってのほかで、その何処かから帰ってきたときに怒気を漂わせるレンが先に待っていたときなんか――想像するだけで怖い。

 とりあえずは墓地で亡き人にだけはなりたくない。

 あの拳は、本当に人を亡き人に出来る威力なのだ。

 ……だって、家の石壁に罅を入れる威力だし。もちろん、素手で。

 一体それはいい年の少女として如何なものとは思うのだが、両親があれではその常識もきっと通用しないのだろう。

 というかどういう育てられ方をしたのか、今までずっと一緒にいたというのによく分からなかった。

「退屈だ」

 もう一度呟いてから空を仰いだ。

 両親の十回忌と言っても何かが変わるわけは無い。

 現に空はいつもと変わらない澄んだ青だ。

 やっぱり何も変わりそうには無かった。

 

 

 

「おまたせ」

 笑みを浮かべながら、何処かすっきりした表情でレンが肩を叩いてきた。

 とりあえず言えるだけの愚痴は言い切ったらしい。

「もういいのか?」

「うん。私はオッケー。カイトは?」

「いつものことだろ? 何も言うことなんか無いさ」

「それでも、一応ね。じゃあ行こうよ」

 踵を返してレンが歩き出す。

 その後ろにカイトが続くのも、やはりいつもの流れだ。

 そして買い物と称したレンの店巡りはどうせ夕方まで続いて、結局はそのまま食材を買って帰ることになるのだろう。

 となれば夕食のメニューを考えておいた方がいいかと記憶に留めておく。

「ところでレン、お前が買いたい物って何だよ?」

「んと。とりあえずは鉄甲かなぁ……最近、薬草の採取とかよく頼まれるし」

 と、そんなことを言い出すもので、カイトはすっかり呆れ顔に。

「……なぁ、女が一番に言う物がが武器っておかしくないか?」

 普通はお菓子やら装飾品やらが普通な気がする。

 んー、と首を少しばかり傾げ、だが苦笑を浮かべながらこう返してきた。

「だってさ、お菓子とかはカイトが作ってくれるし、アクセサリーなんかはすぐ壊れちゃうんだよねぇ……」

 ……妙にそれが的を射た返答だったもので、カイトは口を紡ぐ。

 まぁ結局、確かにレンの判断は正しいわけか。

「分かった分かった……とりあえずは武器の調達な……」

 この辺りには、そこまで強いとは言えないものの、魔物なるものがいる。

 まぁ、それはこの世界に共通なのだが、それでもこの辺りのはかなり下位に入るのだろう。

 そこまで腕を持っていないカイトやレンでも三、四匹ならば一人で倒せるぐらいなのだから。

「雑貨屋の方で注文したから、そろそろ都市の方から届いてるんじゃないかな」

 そう言って、二人の足は自然と雑貨屋へと向かう。

 当然だが、ここは辺境といっても過言ではない場所にある村。

 武具を取り扱う店はおろか、鍛冶屋すらありはしない。

 故に、大抵は自分から都市の方へと足を向けるかレンのように注文をして取り寄せるのがこの村での基本の形になっているわけだ。

「雑貨屋か……俺の買うものは無いな」

「別に外で待っててもいいよ? 暇なんだったら、近くの店で必要なもの買っててもいいし」

「いや、一緒に行くよ。どうせ俺が買うのは食材だけだから、先に行って買っても傷めるだけだろうし」

「ん、ありがと」

「おう」

 こつん、と軽く拳を触れ合わせ、雑貨屋への道を二人は歩いていく。

 もちろん時間が時間だ。道を行き交う村人は結構いる。

 しかもこの小さな村、そのほとんどが知り合いに等しく、近くをすれ違えば確実に挨拶を交わすのももはや習慣に近い。

 なのでさっきも。そして今も同じように挨拶を交わしている内に、あれ? とレンが首を傾げた。

「ね、カイト。今の二人、見慣れない人じゃなかった?」

「ん……二人?」

「ほら、あの二人」

 そうレンが指差した先には、確かに二人の人が歩いていたが、

「……ローブにフード。あんなもの被ってたら分からないって」

 そういうわけで、まったく分からなかった。

「でもでも、こんな村の中であんなの着るなんて絶対おかしいって」

「妙なこと気にする奴だな……お前も。じゃああれだ。お前の武器を届けに来た宅配員か何かじゃないのか?」

 まぁ、確かにこんな村の中で云々も一理あるのだが、そこまで気にする内容でもないのは確かだ。

 辺境で小さい村と言っても、そりゃ訪れる冒険者とか旅人、何らかの仕事の関係者とかがいる。

 だから、今のその二人もそういった関係なのだろう。

「うーん……何か引っかかるんだよね……」

「気のせいだろ。っと、おい。雑貨屋、通り過ぎてるぞ?」

 ふと気が付けば、既に雑貨屋は五歩ほど前に通り過ぎていた。

 その事実にレンも気づき、慌てて踵を返す。

「わ、わ! 早く言ってよ!」

「いや……用事あるのお前だって事忘れるなよ?」

「関係無いよっ! っと、こんにちはー」

 こちらには非難の視線を投げ、そして満面の笑みを浮かべて雑貨屋へと入っていった。

 理不尽だ、と呟くが、誰に届くはずも無くため息を残してカイトもそれに続いた。

 

 

 

「今の二人か?」

「あぁ。間違い無い」

 道行く村人の視線がこちらを向いているのに、当然だが二人は気づいていた。

 が、特に気に留めることも無くその足を進めていく。

「まだ二十歳も行かない子供みたいだったけどな……神様も酷いことをする」

 先程すれ違った少年と少女。

 それこそ一瞬の時間だったが、それだけで十分に分かった。

「……仕方無い。『あれ』の一番近くで生活してるのが、あの二人なんだから」

「……に、してもな……」

 本当に、酷いものだ。

 彼等とて、『あれ』の近くで好きに生活しているわけではない。

 それどころか、きっと何も知らずに生活をしているのだろう。

「それで、どうする? 不信感を抱かれたらそこで終わりだぞ?」

 そう問い掛けたところで、何故か相方の女性が不機嫌そうにこちらを見ているのに気づいた。

 あれ、俺何かしたか? と首を傾げたところで、

「……ディオ。あなた鈍すぎる」

 呆れたように言葉が飛んできた。

「……は?いやいやハイハニーいきなり何を――って、おぉ?」

 ディオと呼ばれた男性は苦笑を浮かべ、だがすぐに首を傾げた。

 対し、マイハニーと呼ばれた女性――セレナは既にその方向を見ていた。

「どうする?」

 その方向は、村の門がある方向。

「どうするってそりゃあ――」

 そしてそこから迫る、数多の気配。

「――戦うしかないだろ?」

 二人は今まで纏っていたローブとフードを二人は投げ捨てる。

 それに回りの村人達がぎょっとしていたが、気にする間は無い。

「魔物が来るぞ! 避難を急げ!」

 ディオがそう叫ぶと同時。

 村門より、魔物の雄叫びが上がった。

 

 

 

「え……、何? 今の」

 新品の鉄甲を付け、具合を確かめていたレンは首を傾げた。

 だが、それにいち早く気が付いたカイトは舌打ち。

「門番のオッサンは何やってんだ……!」

 それだけを苦々しく吐き捨てると、カイトは駆け出した。

「え? ちょ、カイト!?」

「魔物だ! 俺は剣を取ってくるから、お前は先に行ってろ!」

 この村に魔物が責めてくるのは、実はあまり珍しいことではない。

 大体一ヶ月に二、三回ほどあるのだ。

 その度に、戦える者は武器を持って戦闘へと向かうのだが、不思議なことに今回は門番をしている初老の男性からの通報は無かった。

 つまり、魔物の侵攻を伝える鐘が鳴らなかったのだ。

 だからおそらく、今の門はがら空きで戦う準備をしているものも皆無だろう。

 急がなければいけない。

 地面を強く蹴り、後ろから何かを叫んでくるレンを気に留めず駆けた。

 家に戻れば剣がある。

 もう一度言うが、この辺りの魔物はそこまで強い部類には入らない。

 故に村人で協力すれば確実に撃退できる程度だ。

 だが……それも完全に迎え撃てればの話。

 今の状況では……下手をすれば、犠牲者が出てしまうかもしれない。

 奥歯を噛み締める。

 自分のせいではないと。誰のせいではないと分かっていても、何故か込み上げてくるこの感情は何なのか。

 いや、と走りながら首を振った。

 そんなこと、後で考えればいいことだ。

 今はただ目の前のことに集中しなければ。

 幸い、家までは五分と掛からない。

 既に見えていた家の扉へと駆け寄ると、大きな音を立てて開け放ち中へと飛び込む。

 階段を上がり部屋へと入ると、周りを見渡し――あった。

 剣を鞘ごと引っ掴むと、腰へと差す。

 そして、面倒だとでも言わんばかりに窓を開け放つと、躊躇無く飛び降りた。

 着地と同時に足を曲げ衝撃を殺し、それでも殺しきれなかった衝撃は前へと転がり受け流す。

 そこからすぐさま立ち上がり、また駆け出した。

 門までの距離も、走って五分と掛かりはしない。

 おそらくは、家の近かった村人やレンが既に交戦してくれてるはずの村門へとカイトは駆けていく。

 そして、僅か二分半でそこへと着いた。

「多い……っ」

 舌打ちをして、カイトは剣を抜きながら周りを見渡していく。

 しかし、いつも向かい打てた時とはわけが違うようだった。

 先程の不意打ちもあるが、何より、魔物の数がいつもよりもかなり多かったのだ。

 ざっと見で五割増には増えているのではないかと思える。

「あ……カイトっ!」

 ふと、魔物の一匹を殴り倒したところだったレンがカイトの到着に気づき、駆け寄ってくる。

「レン……これは」

「私にも分からないよ……。でも、鐘が鳴らなかった理由はあれみたい」

 すっとレンの手が上がり、それは見張り台の上に備え付けてあるはずの鐘を――いや、鐘のあった場所(、、、、、、、)を指差していた。

「……落ちてる?」

 その鐘は、吊り下げていた紐の部分から見事に寸断され見張り台の上に転がっていた。

「敵の、矢か何かで落とされたんだと思うけど……おかしいよね」

「あぁ……てか、今までそんなことやってこなかったはずだろ……?」

 何かがおかしい?

 そう感じ始めたときだ。

 ゴッ! と衝撃音がし、魔物達の中心から火が巻き上がった。

「……は?」

 誰もが動きを止めてしまい、そちらを見た。

 今、確かに火が巻き上がった。

 そして、その火は確かに魔物達を飲み込んでいた。

 ……その火は、何の火だ?

「爆弾……じゃないよね……?」

 レンが呟くが、確かにそうではなかった。

 火薬の匂いはしないし、何より、爆弾が爆発していればもっと大きな音がするはずである。

 カイトにもそれが何かは分からず首を傾げていたのだが、不意に背後へ迫っていた魔物の気配を感じて思い出す。

「と、とにかく全部後だ! 皆、今は目の前に集中してくれ!」

 声を張り上げた。

 そうだ。今はとりあえず、この魔物の群れから村を守らないといけないのだ。

 それを忘れては本末転倒ではないか。

 誰もが曖昧な返事を返し、何とか戦闘へと復帰する中、また炎が巻き上がる。

 ――何が起きてるんだよ! 一体っ!

 今までとは明らかに動きが異なる魔物の群れに、巻き上がる炎に。

 謎は積み重なるばかりだ。

 それを知りたくも今は不可能なことを知りながら、カイトは剣を振るう。

 

 

 

  あとがき


 皆さんどうも、昴 遼です。

 さてさて始まりました、エターナル・ストーリーリメイクVerです。

 原作よりも随分と脚色が加わっていますが、いかがでしょうか?

 私自身としては、まぁ原作よりも随分とまともな作品になるとは思っているのですが、実はよく分かりません。

 まぁもっとも、まだ第一話です。

 少しでも満足していただけることを望みつつ、まだ次回お会いしましょう。




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